どのように授業を組み立てていけばいいのだろう?
<Profile>
熊本大学教職大学院 准教授
前田 康裕 氏1962年、熊本生まれ。熊本大学教育学部美術科卒業。岐阜大学教育学部大学院教育学研究科修了。
公立中学校教諭、熊本大学教育学部附属小学校教諭、熊本市教育センター指導主事、熊本市向山小学校教頭を経て、2017年より熊本大学教職大学院准教授。『まんがで知る 教師の学び2』(さくら社)他著書多数。
教師にとって、一番の仕事は授業です。今回は「授業の組み立て方」と「教師のスキルの磨き方」について前田先生からお話を伺いました。
学習者側から授業を組み立てよう

教師が何を言うかとか、授業の流れや教材にこだわってましたね。
でもそうではなく、子ども達から見たらどう感じるのか。
つまり学習者側から見たときの授業、学習者側から見て学習が成立しているかという目で見るようになったんです。

そういう目で見るので、以前のような授業観※ではなくなってきたんですよ。
以前は指示・発問にこだわって、そこからずっとつながっている…という授業観だったので。
全く違うものになったんです。

これははっきり覚えてます。
人に誘われて、サンフランシスコのプロジェクトベ-スドラーニングの研修会へ参加したんですよ。
日本人は高校の英語の先生と私の2人だけ。後はアメリカの先生方でした。
そこで体験したこのプロジェクトベースドラーニングの学習はおもしろいなと思ったんです。
それはスキルの差、知識の差、と言ったものを乗り越えられるからです。
だから、日本に帰ってすぐに同じような研修を組み立てていったんですね。
そして私自身の授業もそういう風に変わっていったんです。

子どもの反応が変わるし、教師側の姿勢も変わりますよね。
例えばプロジェクトベースドラーニングの場合、どうしても協働的な学習が多くなります。
以前だったら4人グループでケンカしたときに、私は子どもたちを呼んで叱ったりしてたんですが、ケンカの解決それ自体も学習なんです。
女の子が「先生、どうしましょう。男の子がすねちゃった。」と言ってくる。
そのことすらも自分で解決しましょう、と言うようになりました。
そういうときは、授業の最後の振り返りで、子ども達が「うまく協力できなかった。」と書くんですよね。
そこが大切なプロセスなんです。
それをほっておいたら自分たちも困るので、どうにか自分たちで解決しますよね。
すると、今度はうまくいった、ということをリフレクション※していくんです。

あまりにも教科学習の内容だけに特化してしまうと、肝心な学び方や学習の態度が切り捨てられてしまうんです。
私にとってはとても大事なところなんですね。
それが前田先生の基本的な授業観なんですね。

でも大事なのはそれは僕のやり方であって、この方法を他の先生方にそうしましょうという気はさらさらないんです。
今、振り返ってみると、新しい学習指導要領の考え方にすごくあっていたんですね。
資質・能力の3番目の「学びに向かう力・人間性の涵養」※を例にとると、単に知識・技能を身につければいいのではなく、いかにみんなとうまくやっていくか、問題を解決していくか、そういったことも含めていくんだということですよね。
そういった点では、自分のやり方は、そんなに間違っていなかったんだという気がします。
初任から3年目までの学び方とは?
先生の考えを教えて頂けますでしょうか。

そのためにはまず、子どもが先生の話をちゃんと聞くといった基本的な学習の習慣というものが身についていないといけないですよね。
例えば、他の子が話をしているのに「全然聞いていない」「違うことをやっている」といった状況や「先生の指示が聞けない」といった状況ではその先に行けないじゃないですか。
ですから初任から3年目までは基礎的な教育技術、授業の流し方などは身につけておかないと、ステップアップが出来ないんです。
だからその頃は、がむしゃらにやるしかないと思いますよ。
スキルはどのように身につけていけばいいの?
やはり試行錯誤でやっていくしか…ないですよね。

他には、本を読む、同僚の先生に聞く、研究会に行く。
それはもう多様だと思いますけど。
やっぱり僕が思うのは、まず学校の同僚に習うのが一番いいと思っています。
学年主任とかですね。
例えば体育主任とか体育の指導にすごく詳しい人がいるんですよ。
でも実際はあんまりみんなにそういうことを教えないんです。
教えないというか…教える必要もないと思ってるんですよ。
私のやり方だから、わざわざ教えることもないかな、と。
「こんな指導法がありますから使ってください」というようなことは普通やらないです。
でも聞きに行ったら親身になってよく教えてくれますよ。
「分からなくて当然」だと思って、恥ずかしがらずに聞きにいくことでスキルが磨かれていくということですね。

だからそうやって、とりあえず若いうちはいろんな人にいろんなことを聞く。
どんなことでも。
宿題の出し方から、給食当番のさせ方から、様々なことを聞いていくしかないと思いますよ。
それが一番ですね。
ただそれがベースで、それだけだとその範ちゅうでとどまってしまうので。
本から学んだり、研究会から学んだりするというのは絶対必要かな、と思います。
初任の頃は、ですよ。
そこでも同じような話をされていたのでしょうか。

例えば1つの授業を見たときに、「その授業の真似ではなく、またその方法論だけでなく、どうしてその授業をするのか、授業のベースとなる考え方をしっかり学びなさい」という話をよくしていましたね。

授業観がアップデートしていかないと、ずっと同じ授業を繰り返していますから。
私の授業観が変わった時、つまり「学習者側から授業を組み立てよう」とした時にガラッと変わったんです。
もしそれが変わらなければずっと同じ指示・発問型ですよね。
どんな指示・発問にするかバリエーションが増えるかもしれないし、その土台に乗った方法論は増えていくかもしれないですけど。
でも、授業の根本は変わらないですよね。
授業の根本が変わると、その授業の上に載ってくる方法も変わってくるので。
そういった考え方をいかにするかが大事だと思っています。
まとめ
前田先生がお話しされたように、先に指示・発問を考えるのではなく、まず「授業者側からどうみえるのか」を意識するということはとても大事なことです。しかしそれは簡単には出来ません。それでも意識を向けることで、自分の授業を見直すきっかけになるのではないでしょうか。
(第2弾へ続きます。)→子ども達との関係に悩む時こそ、「子ども達を好きになれ」!~前田康裕先生へのインタビュー 第2弾~
【参照】
※授業観
授業に対する基本的な考え方。
より授業観について知りたい方はこちらへ→「授業観」を磨く教師は、成長が加速する
※プロジェクトベ-スドラーニング(PBL,Project Based Learning)
課題解決型学習、問題解決型学習のこと。
アメリカの教育学者のジョン・デューイによって開発された学習理論。
自ら問題を発見し、解決していく能力を身につけていく事を本質に求めたもの。
こちらも参考にしてください。→教育改革に向けて~アクティブラーニングへの対応は、あなた次第?~
※リフレクション(省察)
「振り返り」をし、次にどう活かすのか改善案を出すこと。
→優れた教師になるための「省察のすすめ」
※学習指導要領
資質・能力 の3番目の「学びに向かう力」(下記、抜粋)
資質・能力 ⅲ)「どのように社会・世界と関わり、よいよい人生を送るか(学びに向かう力、人間性等)」
ⅰ)(「何を知っているか、何ができるか(個別の知識・技能)」及びⅱ)「知っていること・出来ることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」の資質・能力を、どのような方向性で働かせていくかを決定付ける重要な要素であり、以下のような情意や態度当に関わるものが含まれる。・主体的に学修に取り組む態度も含めた学びに向かう力や、自己の感情や行動を統制する法力、自らの思考のプロセス等を客観的に捉える力など、いわゆる「メタ認知」に関するもの。
・多様性を尊重する態度と互いのよさを生かして協働する力、持続可能な社会づくりに向けた態度、リーダーシップやチームワーク、感性、やさしさや思いやりなど、人間性等に関するもの。「学習指導要領 (資質・能力の要素 ⅲ)より」
meg【元小学校教師】
子どもが好きで、彼らをより笑顔にしたいという思いを抱き、教員を目指す。しかし、挫折。あまりにも上手くいかないことばかりで退職を考えるも、奮闘し、次第に毎日が楽しく変化する。子ども達からも「先生大好き!」と言われる日々を送る。そんな小学校教員時代の経験をもとに、学校現場での悩みを持つ人に役立つことを伝える活動を行っている。現在は海外に移住し、子ども達に日本語を教えたり、日本の文化を伝えたりする活動を行っている。また現地校で日本の教育との違いを学び、それを日本の教育に活かす方法や感じたことを日々発信している。