現状に満足しないから、人は悩み続ける~前田康裕先生へのインタビュー 第5弾~

人が悩み続けるのは…「現状に満足しない」から?

  <Profile>

熊本大学教職大学院 准教授
前田 康裕 氏

1962年、熊本生まれ。熊本大学教育学部美術科卒業。岐阜大学教育学部大学院教育学研究科修了。
公立中学校教諭、熊本大学教育学部附属小学校教諭、熊本市教育センター指導主事、熊本市向山小学校教頭を経て、2017年より熊本大学教職大学院准教授。『まんがで知る 教師の学び2』(さくら社)他著書多数。

時代が今、大きく変化しています。社会も子ども達も変化する中で、教師は何を心がけていけばよいのでしょうか。今回は「これからの時代の教師のあり方」について前田先生からお話を伺いました。

 

これからの時代、教師が心がけていくこと

Meg
今、時代が大きく変化しています。
教育改革も、その時代の変化に合わせて作られていますよね。
これからの時代、教師は何を心がけていけばよいのでしょうか。
先生の考えを教えて頂けますか。
前田先生
それは、学習指導要領で求められていることを教師自身がやっていくことですね。
つまり、「自分自身の資質・能力を高める必要がある」と思っています。
Meg
それは例えば、どのようなことでしょうか?
前田先生
いくつか例を言うならば、AIではできないようなことは何か。
それを考えた時に、よく言われるのがAIは「何かをスタートすることが出来ない」ということなんです。
例えば「起業する」「企画する」「問題を発見していく」などが当てはまります。

AIにはそういうことができないので、人間はそれをやれる力を伸ばす必要がありますよね。
だから教師自身が何か企画したり、何かおこしたり、そういう事をやらなくてはいけない。
そして子ども達にも「始めること」「企画すること」「問題発見をすること」といった「何かをスタートする」ことは、とても意味のあることだと伝えるべきだと思いますよ。

Meg
意識して伝えていきたいことですね。
そうしないと子ども達は分からないし、知らないままで成長してしまいます。
前田先生
そうなんです。だから、その意味ではモチベーションがすごく大事になってきています。
たくさんのことを知っているかどうかという知識の量は、人間よりもAIの方がはるかに多いですよね。
知識再生型の学力であれば人間は勝てないです。
考えるための知識はもちろん必要ですけど。

何かを生み出していくこと。0から何かを作っていくというような、何かをスタートさせるためのモチベーションが問われる時代だと思っています。

時代の変化にそって、自身も変化する

Meg
他にも心がけることはありますか?
前田先生
後は「自分が変化していく」っていうことですね。
それを教師がやっていくということです。
Meg
教師が変化を止めたら、子ども達の変化も止まってしまう。
だからこそ、常に自分が変化し続けようという意識は大事ですよね。
前田先生
つまり、人生を100年生きると考えたときに、定年退職して終わりじゃないんですよね。

自分の長い人生を考えた時に、ずっと「学校と家庭の往復でいいの?」と思うことがあるんですよ。
学校の先生は勤務時間になったら出来るだけ早く帰って、家に帰って家族と過ごすということは必要です。

でも僕は、先生はいろいろな場所に行ったり、教育とは関係のない様々な本を読んだりして、もっと社会に目を向けた方がいいと思っています。でも、なかなかそういう機会がないじゃないですか。
学校の先生が他の職種の人と知り合ったりとか、社会的な問題について語り合ったりする機会がないんです。

Meg
その通りなんです。
先生は先生同士のつながりしかない、そんな人が多いと思います。
前田先生
だから僕は今「大人の学びBar」というのを作って、社会的な問題を考える場をつくったんですよね。
Meg
学校という中だけで生きていると、どうしても考え方が狭くなってしまいます。
いくらインターネットが発達していても、人とのつながりに勝るものはないですよね。
特に教員にとって、そういう場は必要です。

その「大人の学びBar」に、とても興味があります。

前田先生
夕方6時半からはじまります。
教員以外の人も集まってきますし、話題は学校教育だけじゃありません。
地域再生の問題や、超高齢化の問題、ICTの問題などが出てくると、それぞれに興味を持った人が集まってきます。

学校の先生ってそういうことを学ぶ場所が本当にないんですよ。
だから諦めるんじゃなくて「ないなら作ろうよ」と思うんです。
スタートの話とつながるんですけど、「ないなら自分で作る」と。
こういう企画を立てるのが自分の強み。
そして、自分が持っている「強み」は、人にどんどん提供していくんです。

強みをどういかすのか

Meg
強みを人に提供していく。
その発想はなかったです。
そうやって、多くの人が強みを提供していったら…世の中がより良い方向へ変化していくのは目に見えてますね。
前田先生
例えば私の場合は一般の方よりも多少は絵が描けます。
そして、自分が儲けるために絵を描くのではなく、相手の必要性に応じて描いてあげる。
そしてどんどん人に提供していくようにしたほうが、結果的にどんどん自分の強みが伸びていくし、公のためになるでしょう。
プロの絵かきではないのですから。

「公のためにやった仕事」というのは、絶対に他の人が応援してくれるんですよ。
例えば、ブランドものの服を買ったり、高級車に乗ったりするといった、自分個人の贅沢のためにお金を稼ぐと、まわりの人は応援してくれませんよね。

でも、公のためにお金を使ったり、自分のものを提供したりするとみんなが応援してくれる。
そうすると人生100年時代を考えた時、その自分の強みが退職した後も何かに役に立ってくるんじゃないか、と。
だから学校の先生はそういったことを意識してやるべきだと。
そんなことを思います。

多忙な時の時間の作り方

Meg
「強みを生かしたくても、忙しくて…。」と言う先生も多いのではないでしょうか。
前田先生
その通りです。実際問題、多忙な先生が多く、時間が作れていないのが現状ですよね。
それは、意識して時間を作っていくしかないんです。
僕が心がけていたことは、例えば6時に帰るにはどういう時間の組み立てをすればいいのか。
そういう逆算の発想でいかないと、いつまでたっても残業で残ってしまいますよね。
Meg
深夜まで働き、朝も早く学校にいる先生は多いです。
意識は大切ですが、時間を作るための具体的に何か方法はあるのでしょうか。
前田先生
例えば、タイムマネジメントの本を買って読むことも1つの方法です。
そういうビジネス本は山ほどあります。
忙しいんだったら、それを克服する術を身に付ける努力をしないとならない。
僕が今まで会ってきた人の中では、「忙しい!忙しい!」っていう人ほど提出物が遅れたり、机の上が雑然としていたりしています。

提出が速い人はわりと机の上が整理されていたり、きっちり行動の計画がなされていたりする場合が多いので、そういった意味では自分自身でタイムマネジメントをして、普段の生活を見直して方向を変えなくちゃいけないんですよね。

Meg
中学校の場合は、部活の問題がありますよね。
前田先生
部活の問題にしても諦めるんじゃなくて、練習時間をいかに短くして「効率よくやるか」を考える。
効率化です。
他にも、子ども達の文章や作品にコメントを書くにも、30人に2分ずつかけていたら、ずっと書いていくと1時間もかかる。
本当にコメントを書くのが必要かどうかという、そこを一回疑ってみる。

また、子ども達が書く自己評価シートには、「もっと書いて」とか「素晴らしい」といった教師側のコメントを先に印刷しておいて、そこに〇をつけるだけにしたことがあります。
時間が一気に6分の1になりました。
子ども達も良いコメントに〇がつけられるように、よりがんばるようになったんです。

Meg
今の現状を書き出して、それは「本当に必要なのか」「子どもに力がつくのか」等を疑って、見直してみることは必要なことなのかもしれないですね。

意識して学ぶ時間を確保する

Meg
そのように日常を見直して効率化していかないと、さらに教師は多忙化の波におそわれてしまいますね。
前田先生
そうなんです。教育の世界はやればキリがないので、どこかでケリをつけないとならないわけです。
教員だから、自分自身が「学び手」として常に「学び続ける人」でないといけないんです。

なぜなら「学び手を育てよう」としているんだから。
それならば、自分自身が学ぶ時間をどう作っていくかということも、1つの大事な能力だと思うんですよね。

前田先生
そう考えると、やらなくてもいいことがいっぱいあるんじゃないかと思いますよ。

例えばぼーっとテレビを見ている時間。
見たいテレビを見るのはOKなんですけどね。
別に見たくもないテレビを何となくつけて眺めていても仕方がない。
そういう時間をどんどん省いていけばいい。

私は夜は10時には寝るようにしているし、朝起きるのは2時50分って決めています。
目が覚めて顔を洗ったりしていると3時くらいになります。
だから現在、朝の3時から7時までの4時間はいろいろなことに使えます。
時間をすごく大事にしているんです。
そのかわり夜はほとんど何もせず、夕食を食べてお風呂に入ったらもう後は寝るだけですけどね。

悩んで当たり前

Meg
子ども達のこと、タイムマネジメント、人間関係のこと…。
教師の悩みは一生続いていく。そんな気がします。
前田先生
人と関わっていますからね。
やっぱり悩みはあって当然だと思います。
最近は特にそう思います。

ある意味で、人間は悩んで当然だと思いなおした方がいいかな、と。
色々なことで悩んだらいい。
あとは悩みからどうやって自分を成長させていくか。
そう考えた方が得だよね、ということです。

Meg
「悩んで当然、そこからどう成長するのか。」その考えは大事ですね。
前田先生
「教育技術で不足しているなら、いかに勉強していくのか」
「人間関係で悩んでいたら、その人から何を学んでいくのか」
このように、いかに自分の中で「今の状況をポジティブに捉えていくのか」といった考えた方が大事だという気がします。
Meg
そう考えると、悩みがなくなることはないし、人間にとって悩みは必要なものなんですね。
前田先生
人間って結局現状に満足していないから悩むんです。
成長しよう、もっと良くしようと思うから。
だから成長しようと思う人はいろいろと悩むと思いますよ。

悩まない方がむしろ異常だと思います。
「この状態でもいい。」「学級崩壊してもいい。」「私は私の道を行く!」
そんな考えの方が危ないと思います。

まとめ

現状に満足しないから、人は悩み、成長し続ける。それは、変化をし続けるということ。今回のお話は教師に限らず、全ての人に当てはまることなのだと思います。これからの時代の変化についていき、人生をどう生きていくか。AIが発達していく中、人はどんな選択をしていくのか。未来を担う、子ども達と直接関わりのある先生たちだからこそ、これからの時代をどう生きていくのかを、考えていくきっかけになるのではないでしょうか。

■ 執筆者情報
meg【元小学校教師】
子どもが好きで、彼らをより笑顔にしたいという思いを抱き、教員を目指す。しかし、挫折。あまりにも上手くいかないことばかりで退職を考えるも、奮闘し、次第に毎日が楽しく、子ども達からも「先生大好き!」と言われる日々を送るようになる。そんな小学校教員時代の経験をもとに、学校現場での悩みを持つ人に役立つことを伝える活動を行っている。現在は海外に移住し、子ども達に日本語を教え、日本の文化を伝える活動を行っている。また現地校で日本の教育との違いを学び、それを日本の教育に活かす方法や感じたことを日々発信している。