「子どものために何でもやる!」そんな教師の風潮を崩していこう。~前田康裕先生へのインタビュー vol.2 第4弾~

まんがの中のセリフは人生のヒントだらけ!

 <Profile>

熊本大学教職大学院 准教授
前田 康裕 氏

1962年、熊本生まれ。熊本大学教育学部美術科卒業。岐阜大学教育学部大学院教育学研究科修了。
公立中学校教諭、熊本大学教育学部附属小学校教諭、熊本市教育センター指導主事、熊本市向山小学校教頭を経て、2017年より熊本大学教職大学院准教授。『まんがで知る 教師の学び』(さくら社)他著書多数。

「まんがで知る 未来の学び」の中の登場人物の行動、セリフの重要なポイントはどこでしょうか?

前田先生
今回の漫画では、わざとプツッと切れているところがたくさんあるんです。
例えば、桜山先生。
「わたしもがんばらなくっちゃ…」と言っているシーンがあるんですが、こうやって学校の先生って考えがちなんです。
そうですね。すぐ自分が頑張らなきゃって思うんですよね。
前田先生
それって結果的には、本当は子どものためにはなってないんですよ。
だって桜山先生、その後に忙しくなってるんですよ。
子どものためにどんどんどんどん、その時その時の忙しさにかまけていて、本来やらなきゃいけない大事なことが後回しになってしまってるという状況ですよね。

この桜山先生は、情報モラルの年間指導計画を出してるんです。本当はリニューアルしないといけない。
でも目の前のことに忙しくなっていて、結局毎年同じことをしてしまってる。

そうそう、そうなんですよ。
前田先生
本当は「どっちが大事なんだ?」って話なんです。
そうなんですよね。
それこそ本質からずれてしまってる。
前田先生
結局、桜山先生みたいな先生って多いと思うんです。
自分の私生活が犠牲になっちゃってるんですよね。
友達はちゃんと家族が出来て、旅行とか行ってるのに、毎日自分は夜遅くまで働いている。「このままでいいのかなあ...」って。
たぶん、こういう人って多いと思うんですよね。
多いですよね。
日本に帰るたびに聞きます。
前田先生
多いでしょう。
竜南先生は部活熱心なのはいいんだけど、結局家族を犠牲にしてるんですよね。
「いつになったら…自分の子どものことを見てくれるの?」って奥さんが悩むシーンがあるんです。
これもね、よく聞くんです。
自分の子どもをほったらかしにしてるっていう先生は多いですよね。
ありますよね。仕事ばっかりして!って。
前田先生
それは「子どものために何でもやってしまう教師がいいんだ。」という風潮がずっとあったんです。
本来、子どものために頑張ることは大事なことなんだけども、優先順位はどこなのかってことを考えないといけません。
その通りです。目の前のことに全力で向かうのは大事だけど、自分の身体は1つしかない。
前田先生
中学校の先生で部活に熱心になり過ぎちゃって、授業の方をおざなりにしてる人がいたんです。
私は、それはガンとして「違うよ。」といったんですけどね。

それと「今の学校って…ブラックなんですよね?」と大学生の森炎くんが言うシーンがあって。
これって、最近特にブラック、ブラックとみんなが言い始めていて。
そのこと自体は、学校外の人が言ってくれるのはいいんですけどね。
学校の内部の人まで言っちゃうのはどうかなと思うんです。

学校の内部の人まで言っているんですか?
前田先生
はい。
それはどうなんだろうって。
学校の先生が自分の仕事をブラックだって言いだしたら、それはちょっと子どもに申し訳ないんじゃないかなと。
子ども達に力をつけたり、成長したりするのを喜ぶのが教師の仕事であって、それをブラックって言っちゃうとどうなんだろうなって。

あなたの仕事のやり方がブラックなのであって、教師の仕事そのものをブラックって言っちゃいけないよと。

だから漫画の中で、「教師の仕事は思った以上に奥深く、たとえ忙しいとしても…決してブラックなんかじゃないということです。」と伝えているんです。
これは私の中で、譲れない部分ですね。
これは批判されてもぜひ言いたいところだったんです。

たしかに、教師の仕事自体はブラックではなく、本当にやりがいがあり、楽しいものですよね。
前田先生
セリフの中にいろいろ仕掛けがあるんです。
あともう1つはですね。教師の仕事のことでなんです。
今度は「創造性」とは何かってことなんですよね。

漫画の中で「森炎くん」が「困っている人を助けたい。多くの人を喜ばせたい。そうした思いが創造性を育むって。」
と言う部分があります。

佐々木浩一さんもおっしゃってたんですけど、「困っている人を助けたいっていうところに創造性がある」っておっしゃってて。
「そうそう、そう!」っていう風に私も思っていて。
自由にすれば創造性が育つとは僕はあまり思わないんです。

そう思いがちな人は多いですよね。
前田先生
小学校の図工の時間に、みんながなんか適当に「ワーワー」やってるっていう場面を見ることがあります。
ベースにはそういう活動があった方がいいかもしれない、何もないよりは。

でも、自由にやらせておけば育つかっていうと、それは違うと思うんです。
与えられた条件の中で、目的をもって、しかもそれが役に立ったり、喜んだりするって大事なんですよね。
そうした思いの根本が「困った人を助けたい」になっていて、そこが自分がこだわったところなんです。

前田先生
あともう1つ。ここなんですけど。
未来の社会をよりよくするという、手久野路地夫(てくのろじお)先生という人が「全員参加」の意識が必要なんですと言うんです。
漫画の中では高齢社会の話なんですけど、でも高齢社会は高齢者だけの問題じゃなくて、若い人もみんな考えていかないといけない問題ですよね。

その中で森炎くんが、「『してほしい』ではなく、『こうしよう』と考えると、人は変われるって」という部分があるんです。
「ああしてほしい」じゃなくて、自分達が「こうしよう」と。
自分達の問題として、自分達の力で変わっていこうと。
自分達から何かスタートさせていこうと。

自分たちが変わる、自分たちがスタートさせるってことは、AIにはできないっていわれているんですね。
「AIにできないけど、人間にはできること」の1つとして、「何か新しいことをはじめること」だと吉良先生が言ってるんです。
与えられた枠組みの中で情報を大量に処理することはAIは得意です。
でも全く何もないところから新しいものを生み出すことはできないんですよね。

ゼロからはできないんですよね。
前田先生
何かスタートさせることってAIにはできない。と言われてる。
そういった意味では何か目的をもって、何か新しいことを始めていく。
自分もそうだけど、何か新しいことをやっていきたいなと思います。
その根底が人の役に立ちたいとか、喜ばせたいといった思いなんですね。
前田先生
だから漫画の中のおばちゃんたちも、ただ単に最初は興味半分でICTを学びたいって思ってた。
でも「町を救う」という目標があると、「やりましょう!町を救うために!」という気持ちになる。
そうですよね、より意欲が湧いてくるんですよね。さらに頑張ろうって思いますよね。
前田先生
そういう気持ちが結構社会を変えてくんじゃないかなって考えてるんです。
だからセリフの中にいろんな自分の想いとかを込めていて。
それを読む人がどういう風に読むのかというのは、読者に任せているんです。

だからこの漫画の中にはいろんな仕掛けがたくさんあるんです。
そこはあんまり言っちゃうとネタがばれちゃうんですが。。。

中学生の女の子たちが「爪込君って、結構いい人だよね。」といういうセリフに、勉強ばっかりやっていた爪込君が皆から認められてうれしいような恥ずかしいような…。

学習をやっていく時に、自分だけが発言するんじゃなくて、学習のめあてに添って、相手の意見を聞き合ったりしていくと、みんながいい気持ちになっていく。
そういうこともすごく大事なんだっていうことも伝えたかったんです。

そのあと象徴的なのがあるんです。
爪込君は自分の町が大好きなんだけど、「この町を出たい。」というシーン。
これってジレンマがあって。
つまり、勉強の得意な子は町を出たがるんですよ。

そうですよね、
そういう傾向がありますよね。
前田先生
だから過疎化の町を発展させようと思って、学力を高めようとすればするほど、学力の高い子は町から出ていってしまうという現実がある。

特にここに出てくるような「エンジニアになりたい。」と言った場合には、自分の町にいては夢がかなわない。
大きな都心の大学に行って、大きな会社に入りたいというような思いがある。
それはどうしようもできない。

そして最後の終わり方が…全然、問題が解決しなかったんですよね、今回の本では。
今までの本は割と解決して終わってたのに、全然解決せずに終わったので、読んだ人から「なんでこんな終わり方したんですか?」って言われたんです。

結局それは、問題というのは複雑なんだということも伝えたかった。
そもそも簡単には解決しないってことなんですよ。現実の問題というのは。
簡単に解決するもんじゃないから、だから次の問いが生まれてくる。

そうですよね、だから楽しかったりするんですよね。
前田先生
そうそう。
だから1人じゃなくて、いろんな誰かと関わろうと思う。
前田先生
そうです。
協働する必要性も出てくる。
もう1つは、苦労して獲得していった知識や技能というのは忘れないんですよね。
印象深く残りますよね。
前田先生
簡単にひょっと人から教えてもらったものや聞いたことは、その時は覚えているんだけどすぐに忘れちゃうんです。
でも苦労して必死になってやっていった、例えば漫画の中のシーンの、山の中を歩いてって見つけていった経験だとか、なかなか得られなかったことって強烈に覚えてますよね。
そしてそれがまた力になっていくと思うんですよね。

だからあえてこういう終わり方したんですけど。
良かったのかどうかは分からないんですが…。

まとめ

困っている人を助けたい。多くの人を喜ばせたい。それが本来の人間のエネルギーの源。それがあるから創造性が生まれ、AIにはできない人間らしい生き方ができるのです。そしてその想いは忘れているだけで、誰しももっているもの。それを今一度思い出し、「誰か」のために生きていく。それは人間にしかできない特権とも言えます。まんがの登場人物たちの言葉に注目すると、様々な人生のヒントが見つかるかもしれません。

(第5弾へ続きます。)

■ 執筆者情報
森田恵【元小学校教師】
子どもが好きで、彼らをより笑顔にしたいという思いを抱き、教員を目指す。しかし、挫折。あまりにも上手くいかないことばかりで退職を考えるも、奮闘し、次第に毎日が楽しく変化する。子ども達からも「先生大好き!」と言われる日々を送る。そんな小学校教員時代の経験をもとに、学校現場での悩みを持つ人に役立つことを伝える活動を行っている。現在は海外に移住し、子ども達に日本語を教えたり、日本の文化を伝えたりする活動を行っている。また現地校で日本の教育との違いを学び、それを日本の教育に活かす方法や感じたことを日々発信している。