学習指導要領を一般の人にも伝えたい!~前田康裕先生へのインタビュー 第2弾~

学習指導要領の理念とは?

 <Profile>

熊本大学教職大学院 准教授
前田 康裕 氏

1962年、熊本生まれ。熊本大学教育学部美術科卒業。岐阜大学教育学部大学院教育学研究科修了。
公立小中学校教諭、熊本大学教育学部附属小学校教諭、熊本市教育センター指導主事、熊本市向山小学校教頭を経て、2017年より熊本大学教職大学院准教授。『まんがで知る 教師の学び』(さくら社)他著書多数。

(1) 学習指導要領って具体的にはどんなことが書かれているの?

後藤
不思議に思ったのが、「指導要領って国が作ったもんでしょ?」って感じで現場では捉えられているんですか?
そんな理想論を重ねても…って現実忙しいのもあるので、どうやってやろうという話ではなく、ないものになっちゃっているっていうのはあるんでしょうか?
前田先生
それ、良い質問ですね。
私も現場に30年以上いたので分かるんですが、先生によって学習指導要領の捉え方は相当差があります。

学習指導要領の前に「中央教育審議会」というのがあって、専門家が色々集まって審議していくんですよね。
学習指導要領は10年に1回しか変わらないので、その中央教育審議会ですでに次の学習指導要領をどうしようかというのを
何年もかけて審議していって、変えるところは変えていくんです。

だから、そこから読んでいる人は、新しい学習指導要領はどういう方向性になるかはだいたい分かってる。
そうやってちゃんと読んでいる先生もいれば、全く読まない人もいるわけですよ。

だからその人たちによって考え方が違います。
僕はどっちかというと中央教育審議会の答申とかを読んで、「なるほどそうだよな。」って思うから、
国が作っているというよりもそっちの理念の方に賛同するんです。

前田先生
それで今回僕が賛同したのは、やはりこれから先の社会というのは、日本の国だけでは成り立たないので、
世界が協働していかないと地球規模で本当に、温暖化もそうですけど、持続不可能になっていくよねということです。

危機意識がある中で、日本という国が産業構造の変化の中でもう工業社会では成り立たない。
では「どういう社会でどういう産業を作っていけばいいのか?」と言いうことを真剣に考えていかないと、
日本という国が古い産業構造のまま、古い価値観のまま、どんどん沈没していくんじゃないかって思うんです。

そういう危機感の中で、もっと学校というところのあり方を変えていこう、と。

(2) これから 求められる資質・能力とは何なのか?

前田先生
今まで『学力』と言っていたものを、『資質・能力』という言い方にしたわけだから、やはりその従来の学力以外の部分も重視されてきていると思うんですよね。

例えば人の良さを認めたり、協働でやっていったり、またはコミュニケーションの力だとか、問題を発見する力とか。
そういった様々な『資質・能力』を高めていかないと本当にやばいですよって話です。

それではその『協働する力』や『問題を発見する力』というのは、教師が教科書をただ教えていくだけの、生徒がただ覚えていくだけの学力ではもう通用しません。
知識や技能はもちろん大事なんだけど、子ども達も大人たちももっと協働して考えていく場面がいりますよね、と。

しかもリアルに考えていくということを学習指導要領は伝えているわけですよね。

(3) 社会はどのように変化しているのか?

~持続可能な社会とは?~

後藤
私の一番下の息子が中学一年生なんです。
それで小学校の時にPTA会長をやらせて頂く機会があったんですね。

3人兄弟なので結果的に5年やったんです。
それで、今も校長先生や他の先生方と仲がいいんです。

前田先生
いいですね、それ。
後藤
たまに学校へ行ったりするんですけど、「学校を地域に開きましょう。」って話をするんです。
そうしたら、以前よりもだいぶ開いてきたんですね。
前田先生
どうやって開くんですか?
後藤
一番最初に自分がやりたかったのは、「給食変えませんか?」って話から始まったんです。
無農薬野菜でやりたいですって話をしました。
議員さんとか市役所とかに行って話をしてみたんですけど、なかなか進まないっていう現状があったんです。
そしたら校長先生が面白い人で、校庭でゴーヤを自分で作り始めたんですよ、無農薬で。

それで初めてやってどれだけ作れるか分からないけど…っていって、600本作ったんです。
それを給食センターに持っていって、放射能の検査等を受けて「大丈夫です。」って言われて、うちの学校は自校給食なので、そのゴーヤのおかげで他の学校と比べると一品多く振舞うことができたんです。

後藤
そのメニューがゴーヤチャンプルーだったので、子供はかなり残すかなって予想してたんです。
子ども達は600人いるんですけど、ゴーヤチャンプルーに関する残菜って片手で持てるくらいだったんです。
前田先生
そうだったんですか。
美味しかったんですね。
後藤
美味しかったのと、その作っていく過程で校長先生の方から、「今作ってるんだよ」とか、「子ども達で手伝える子は来てね。」と子ども達を巻き込んでたんですね。
「そんなことをやってるんだよ。」って地域の方に話をするようにしたんです。
前田先生
なるほど。
後藤
話を聞いていたら、地元で結構、休耕地があったんです。

それでOBの方で「来年土地を貸してあげるよ。」って話をしてくれる人が出てきたんです。
もともと農家をやっていた人たちが多いので、「じゃあ何か作ってみよう。」っていう案が出てきて、今それをすすめたいねっていう風にすすんでいます。

さらに、「夏休みや春休みって子ども達の生き場所がないよね。」って話になったんです。
近くに古い400年くらいやっているお寺さんがあって、「そこに子ども達が来てもいいよ。」って場所にしよう。
そしたら教育実習に来る学生さんたちがいるので、その子たちに話をして何かやろうかって話をしている最中です。

前田先生
いいですね。
今、書いてる本がまさに『学校と社会をつなぐ』というのがテーマなんです。
まさに社会というのが地域社会なんですよね。
地域社会と学校が繋がっていって、それによって子供たちが成長していく。
前田先生
ゆくゆくはその子ども達が地域社会だけでなく、もっと広い範囲の社会というものを見つめなおしたり、あるいは「自分たちが変革していこう。」という気持ちになってくれたり。
さらにゆくゆくは「地球規模で活躍してくれる人になってくれたらいいな。」という気持ちがあります。
前田先生
カリキュラムイノベーションという言い方をしているんですが。

今までアカデミックな学問の体系を、教科(国語とか社会とか)に分けて、大学から高校、中学、小学校へとおろしていったわけです。
人類の今までの様々な知恵をおろしていって、きちんと身につけさせ、学歴という形で与えて「卒業すれば後は社会で頑張ってね。」という構造だったんですよね。

後藤
はい。

~カリキュラムイノベーションの必要性~

前田先生
ある意味、学校と社会は離れていても困らない社会だったわけです。
今は社会があまりにも変化が激しい。また、30年ほどの産業構造の変化も激しい。

僕たちの父親の時代は工業化社会の中で、どんどん働いてどんどん豊かになっていった。
そういう価値観の中で社会がこの30年間の中でガラッと変化し、崩れていったのに、学校だけは全然変わっていない。

その学校と社会を分断しているものを、もっと近づけていこうというのが、カリキュラムイノベーションの考え方です。

前田先生
カリキュラムが今までの考え方と変わってきているんです。

「地域で今、問題になっていることを学校にどんどんいれていこう。」
また、逆に「学校が今まで教科縦割り型だったものを、教科を横断した学習によって地域の課題解決を行なっていこう。」という流れなんですよね。

前田先生
私のまんがの1巻目にポスターの話があります。
あのポスターも、地域の印手(いんて)さんという女性部長が「夏祭りのポスターを作ってくれませんか。」って桜山先生に頼んできたわけです。

桜山先生は「なんで地域のポスターなんて作んなきゃいけないの?めんどくさいな。」って思うんです。
でも、地域のポスターを作った方がリアルなポスターになるし、お互いに社会的な課題と学校の教育の目標がぴったりと繋がりますよね。

前田先生
そういったことを本の中に入れていきたいと思ったんです。
だから今、後藤さんにどういう風に学校が社会に開いているのかと聞いたら、やはり人と人が繋がらないといけないと。

学校と社会の間に何か必要なんですよ。
後藤さんの場合、ゴーヤがそこに入ったんですよね。
校長先生が義務感で作ったんじゃなくて、本当に好きだから作ったんですよね。

後藤
そうですね。
前田先生
それってすごく大事なところなんです。
嫌々やると繋がらないんだと思うんですよね。

自分が大好きなことをやっていくというのが大前提なんです。
私のまんがの中にも、おばあちゃんが3人出てきて町を救う場面が出てくるんです。

前田先生
「何をやればいいんだ?」って話になるんですけど、結局自分の好きなことを発信すればいいといわれるんです。
「そんな趣味的なことでいいの?」って思うんだけど、それが結果的に人を増やしていくことになる。

その校長先生のゴーヤの話って、結局同じだなって、面白いなって聞いていたんです。

後藤
そもそもうちの小学校がおかしな成り立ちをしていて。
市が作った学校じゃないんですよね。
結果的には市が作ったんですけど、
土地を40年前の先輩たちが用意をして地権者を説得して、ここに学校を作ってくださいって言って作った学校なんです。
そういう経緯があって、そのOBの方がまだご健在なので、こちらから働きかけるととても熱心に動いてくれるんです。

市内で「おやじの会」が唯一ない小学校なんですよ。
それを作る意味がないんですよね。

前田先生
もともと入っているんですね。
いいですね。
後藤
だからおじいちゃんおばあちゃんの世代の人たちが手伝ってくれるんです。
大きな行事だと、来ているお母さんやお父さんにマイク持って「手伝ってもらえませんか?」って声かけてくれると、簡単に何人も集まってくれる状態が出来てるんです。
前田先生
なるほど。
後藤
だからやりたいことを、声をあげちゃったもん勝ちなんですよね。
ただPTAの役員をやってくださいっていうと、面倒くさいので別の話になってくるんですけど。

だから何かしてあげたいなっていうのが、歴代に流れているのがあるので、すごくラッキーですね。

~部活からみる、持続可能な社会~

前田先生
僕の感覚からいくと、子ども達にとってこれから先、スポーツに限らず音楽でも何でも「楽しめるようになってほしいな。」と思ったときに、
それが『持続可能かどうか』というのを考えないといけないと思っているんです。

というのは、特に地方では今、どんどん人口が減ってきていますよね。
そうすると今までは500人いた学校が、100人しかいなくなったら沢山の種類の部活動はできないわけですよね。
どこかしら、つぶさなくてはいけなくなる。

あるいは、そんな部活の得意な先生ばっかり来るわけじゃないし、先生も当然減っている。
どんどん成り立たなくなりつつあるという状況がきています。

前田先生
そうすると「そもそも放課後のスポーツ活動を学校が請け負うものなのか?」という疑問が湧いてきます。
部活動そのものは否定しないんだけど、部活動を無理なくみんなが幸せになるような形で持続可能にさせるためには、地域が請け負う部分や、学校が引き渡す部分は出てくるんです。
それを考えないと、たぶん今後の部活動っていうのは上手くいかないと思っていて。
前田先生
場合によってはいくつかの学校を合わせて1つのチームを作るってことも出てくるかもしれない。
そうすると、学校の先生に顧問をさせるんじゃなくて、地域で部活をするっていうのも考えられるんですね。
もちろん部活が大好きな先生もいるので、そういう先生は自分の地域でボランティアでできる仕組みをつくるのもいいと思います。

学校を4時くらいに出て、4時半くらいからその地域の部活を教えることもできる。
そうすると持続可能性が高まるわけですよね。

前田先生
でも予算はいりますし、仕組みも変えていかないといけません。

だから「施設を貸し出す」っていう学校が出来ると思うんです。
でも仕組みを変えた後、「どこに主体が行くのか?」となった時に、先生なのか自治体なのか、保護者が独自の組織を作るのかという問題が出てくる。

後は、けがをした時に、どこがそれを請け負うのかといったこともたくさんあります。
それと教員養成の問題もありますね。

大学の教員養成では、部活の指導の講義なんてどこにもないんですから。

後藤
へえーー!
前田先生
だから「部活はない」という前提、あるいは中学校・高等学校の学習指導要領には「生徒の自主的な活動」としてしか書いてないんですよ。
まして小学校の学習指導要領には部活動は全く載ってないですよね。

熊本県全体では以前は小学校全体に部活があったんですけどね、県は「もうやめる。」っていってます。
熊本市の小学校の部活動はどんどん減らしていってるのが現状なんです。

前田先生
だから本当に部活を学校の中でさせようとするなら、教員養成の中にきちんと制度として入れていかないといけないと思うんです。
教育養成の中に部活の部の字もないんですよ。
学校に入ったらそれが『メイン』になっているっていうのはおかしな話ですよね。
後藤
それはすごい、ビックリしました。新たな視点というか…。
前田先生
そういう意味でも先生たちは完全にボランティアなんですよ。
だから土日もやっても手当がでない。出るところもありますけど。
本来はやらなくていい仕事なんです。
後藤
だから先生方もそういう風にいうんですね。
あんまり好きじゃない方はそういいますよね。
前田先生
ただ実際赴任した先にバレーボール部があって、誰も担当する人がいなかったら、結局は誰かが担当しないといけないですよね。
若い男性の先生がやらされることが多いわけです。

初めてやるバレーボールの指導を、自分で本を読んだりして一生懸命になる。
真面目な人がやればやるほど本業の授業の方がそっちのけになっていく現状がある。
あるいは土日に練習試合に連れていくとなると、今度は家庭の方がないがしろになっていく。

前田先生
部活動は様々な問題を含んでいます。
だから制度を見直さないと、持続可能性は低いんですよ。
だから「今までやってきた部活動のイメージで、そのままやっていくと上手くいかないだろうな。」って思ったりします。

本の中には部活のことはちょこっとしか載ってないんですけど、現実にはいろんなことが問題として出てきているんです。

~教師も変えないといけない、経済に対する価値観~

前田先生
2巻目に経済の話が出てくるんですよ。
学校の先生って一般的に経済の話を嫌う人が多くて。
それはなぜかというと、経済=お金儲け=私利私欲みたいに考えている人が結構多いんですよ。

例えば、「プログラミング教育は大事だ。」って経済界からの要望があったとなってくると、
「企業のお金儲けのために教育を利用するな。」っていう人は結構いるんです。

でも、そもそもが経済っていうのは経世済民っていって、人を助けて世の中を幸せにするという意味があります。

それに加えて『エコノミー』というのは基本的に新しいものを生み出して、それを社会に還元していって、
それで「ものを作った側も買った側もお互いに幸せになる」という仕組みの話だと思っているんですよ。

「そういう力を高めあえば、お互い豊かになっていくよね。」っていうことだ思うんですよ。

前田先生
それで何がまずいかと言うと、『バランスが崩れるのがまずい』のであって、すごく富める人ととても貧しい人が出てくるというバランスの問題なんですね。

これは考えなくっちゃいけない問題だと思うんです。
でもその「経済力をつける」という意味でいうと、決して悪いことではない。

そこに新しい価値を生み出したり、人を幸せにしたり、苦しんでいる人を助けるためにいろんなものを作っていく、というのはすごく大事なことだと思います。

そこをやっぱりどうしても入れたかったんです。
だから後藤さんがおっしゃるように経済の話も、第2巻では入れているんですね。

~学校でやることは、実際に使えることを…~

後藤
「大人になってから、学校で習ったことを何か使いましたか?」という話って最近よく耳にします。
「社会に出て使ったものってないよね。」っていう話になりがちだと思うんですね。

でも今現在、それを勉強している子ども達がそれを聞いちゃうと、「やっぱり勉強ってつまんないな。」って感じると思うんです。
でも実際問題使わないのも事実ですよね。

前田先生
確かにそうですね。
使わないのもあるので。
本の中に出てくるポスター制作とかもそうですけど、コンクールのためにポスターを描いていたら、使わないんです。
ポスターカラーで画用紙にポスター描いて、ほとんど使われないものを描いても意味がないですよね。

でも実際にタブレットを使って自分が撮ってきた写真に文字を入れて、それをSNSで流すことをすると、ポスターとしての役割を果たせるわけです。

後藤
そうですね。
前田先生
デジタルの良さは、何度も書き直しをしたり、修正ができたり、色を変えたり、文字の大きさを変えたり。
ポスターカラーで描いている時にはなかなかできなかったことが、デジタルならできるわけです。
試行錯誤して、よりよいものを作っていくっていうのは、むしろデジタルの方が向いているわけなんです。
前田先生
『オーセンティック』という言い方をするんですが、学習の目標を実際にある真正なものにしていくには、リアルな学習課題の方がいい。
だから役に立たないようなものを作るよりは、実際に社会に役に立つものを作っていった方がいいなって思うんですよ。

まとめ

社会の変化が激しい中、未だ変わらない学校。その社会とのズレが、様々な問題として出てきています。それはある意味、チャンスなのではないでしょうか。今こそ、人と、そして地域と繋がって変化していく時にきています。それには教師や地域の方がお互いに心を開いていく。さらに、そこにはつながりをつくる「何か」が必要になる。その繋がりできたとき、そこには確実に新たな道ができるのだと思います。

第1弾はこちら⇒http://kyouikukaikaku-2020.com/2019/11/15/50/
第3弾へ続きます⇒http://kyouikukaikaku-2020.com/2019/11/21/52/

■ インタビュアー
後藤【元PTA会長】
元PTA会長として、学校現場の現実を目の当たりにし、現在の学校教育について疑問を抱く。自分はPTA会長という立場で何かできることはないのか?と日々、子ども達や先生たちのために奔走。保護者と先生、そして地域の方との橋渡し役として、なくてはならない存在である。彼のおかげで多くの先生たち、保護者が救われている。
■ 執筆者情報
森田恵【元小学校教師】
子どもが好きで、彼らをより笑顔にしたいという思いを抱き、教員を目指す。しかし、挫折。あまりにも上手くいかないことばかりで退職を考えるも、奮闘し、次第に毎日が楽しく変化する。子ども達からも「先生大好き!」と言われる日々を送る。そんな小学校教員時代の経験をもとに、学校現場での悩みを持つ人に役立つことを伝える活動を行っている。現在は海外に移住し、子ども達に日本語を教えたり、日本の文化を伝えたりする活動を行っている。また現地校で日本の教育との違いを学び、それを日本の教育に活かす方法や感じたことを日々発信している。