「学年担任制」を考える

学校の働き方改革が進まない。いや進んではいるのだろうが、「学校は変わった」と世の中が思ってくれないと、教員不足解消の反転攻勢は始まらない。

不登校が増え続けている。子どもたちがいまの学校に限界を感じていることの証のひとつだろう。これまでの学校の常識を劇的に変える必要があるのではないか。

いじめも増え続けている。教員が一生懸命、認知するようになった結果だとしても、1人の教員が変化に気づいて対応できることは限られている。複数の教員の眼で子どもたちを見ることが欠かせない。

そうした問題意識から、まず「学年担任制」の現場を訪ねようと考えた。一つの学級には1人の担任がいるというのが世の中の常識だが、その常識を破る取り組みが静かに広がりつつあるようなのだ。

ただ、いまや文部科学省が予算を確保して推進する小学校の「教科担任制」と違って、全国でどの程度行われているのかはわからない。ずいぶん古くから取り組まれていると言う人もいるし、昨年度はやっていても今年度はやっていない学校もありそうだ。特定の学年、特定の時期ということも珍しくない。名称も「学年担任制」「全員担任制」などいろいろな呼び方がされている。呼び方の数だけやり方も微妙に違うはずだ。「やったことはあるが、結局うまくいかなかった」と過去形で語る人もいる。  

だが実態が見えないだけに、各地に足を運ぶことの意味もあるのではないか。


そう考えて「共育の杜を歩く」旅に出た。


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(1)「文化を変えなければ」と教育長

「学年担任制が必要」と訴えている教育長がいる。千葉県松戸市の伊藤純一もその一人である。松戸市は江戸川を渡ればすぐ東京都という地理的な条件から、東京のベッドタウンとして発展してきた。筆者は2021年から、このまちの教育委員を務めている。「共育の杜を歩く」旅とは言え、まず足元から取材してみなければと考えた。

伊藤には同市内の中学校での管理職時代、組織として学年でまとまって朝学習を始めた経験がある。統合したばかりの学校で、学校がうまく回っているとは言えない時期だった。この取り組みは何年か続けた記憶がある。ある意味で、これも「学年担任制」の取り組みの一部だろう。

そしていま、現場に「学年担任制」をお願いしている理由のひとつに教員不足を挙げる。
「クラス担任が1人休み始めるとまず教務主任が入る。2人目は教頭が入る。そういう文化を変えなければいけない」

1学年3クラスある学校なら3人の教員が3クラスを見る。「そうすることで、教務主任が入ることになっても、まるまる入る必要はなくなる。2.5人で済むので、チームティーチング(TT)のT2で動ける人が入ればいい」。生徒指導面でも、多くの目で子どもを見ていくことができる。1人の担任とウマが合わないために、学校に行くことをいやがる子どものことはよく耳にする。

なるほど、と思う。しかし、言うほど簡単なことではないようだ。

現実には先行している中学校が1校ある。2022年度の報告書も教育委員会に届いている。しかし、伊藤は中学校で先行してやってもらうつもりはなかった。

「本来は小学校から取り組んでもらいたい。小学校のほうが組織で議論することが弱い。担任が1人で課題抱えて無理をしてしまう」

伊藤は教員を集めてフリーに議論する「寺子屋」と呼ぶ非公式の学びの場を、文字通り、松戸市内の寺を借りて開いてきた。その中には、入職から間もない教員の集まりもある。若手教員のコミュニケーション力不足を感じてきたからこそ始めた集まりだ。

「1対1のコミュニケーションが苦手な教員は以前より増えている」と実感している。それだけに他の教員と一緒になって課題に取り組むことが苦手なのかもしれない。

伊藤には以前、特別支援学校の校長から、通常の学校から異動してくる教員について愚痴をこぼされた経験がある。特別支援学校は、子どもへの対応で最初からチームを組んで動いているからである。

「学年担任制」は特別支援学校に学ぶ必要があるかもしれないという発想が頭をよぎったが、2023年4月の新学期早々、ひとまず、先行している中学校を訪ねることにした。

 

(文中敬称略)

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「学年担任制」を考える

(2)「勤務時間が減った」

「学年担任制」に昨年度から取り組んでいるのは、松戸市立栗ケ沢中学校だ。JR常磐線の松戸駅から新京成電鉄に乗り換えて五つ目の常盤平が最寄り駅になる。1年生と3年生は4クラス、2年生は3クラスという規模の学校だ。説明してくれたのは主に教頭3年目の佐野隆義だった。以前にもこの中学校で勤務経験がある。

2022年度は1、2年生のみで実施、2023年度は初めて3年まで含め全校で取り組むことになった。2023年度の担任の交代スケジュールを記した4月のカレンダーを見て驚いた。2、3年生は週替わり、ときにはそれ以上の頻度で人が変わっている。

例えば2年生だと、教員Iは6日の始業式から14日までを1組を担当。発育測定、避難訓練、保護者会のある17日からの週には2組、スポーツテストなどのある24日からの週は3組に入る。17日からの週には別の教員が、24日からの週はさらに別の教員が1組担当になる。後から入るのは学年主任の教員だったりする。

どの時点で交代するかは学年ごとのマネジメントだ。1年生はまず生徒が中学校に慣れること優先という判断で、4月は動かさないことにした。2023年度から見直したことのひとつだ。

厳密にいうと、週単位で交代しているのはあくまで「期間担当」(一定期間担当する教員)で、通知表や調査書など、絶対に抜け落ちてはならない業務については、学級(進路)事務担当の教員を固定している。一方で、定期的な面談は生徒や保護者の希望に応じて面談者の教員を選ぶことができる。

2022年度は、修学旅行の責任者が一定期間外れるなど、時期によって担任業務を外れ、負担を平準化するという取り組みを試みた。その結果、教員の勤務時間が目に見えて短くなったという。1クラスを担当するよりは生徒理解に時間がかかる。しかし、特定の教員だけが勤務時間が長くなるということがなくなったのだ。

「超過勤務の理由を聞くと、保護者対応と部活動が圧倒的に多いのですが、このうち保護者対応を理由にする超過勤務が明らかに減りました」

どういうことか。「固定担任制だと不必要な対応が多かった」。子どもの代わりに親が連絡してくるようなケースが減り、保護者との適度な距離感ができたことで、対応する時間が減ったというのだ。

学年ごとに日常的にも責任を共有し、何かあった時には互いにフォローするようになった。また、職員室で個々の生徒のことを話題にする機会が増え、通知表の所見欄についても互いに、生徒の良い部分を話し合うようになった。さらに、管理職の側からすると、担任をもたせて大丈夫かなという心配をする必要がなくなったという本音も漏れた。もちろん、学年全体を見渡すために、生徒理解には時間がかかるが、教員にはいいことが多いようだ。

また、生徒も以前より主体的にものごとに取り組むようになった。学級担任がいると、どうしても担任は学級づくりをしようとする。だが、そうでないから自分たちのクラスをどうするか、生徒主体で決めていくことが増えたというのだ。ただ、保護者には、教員以上に抵抗が強い。アンケートの結果をのぞいてみよう。

 

(文中敬称略)

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「学年担任制」を考える

(3)「保護者はまだ慣れていない」

「学年担任制」を2022年度から実施している栗ケ沢中学校では、同年度の9月と2月にアンケートを実施している。

生徒アンケートでは、学年担任制で「安心して登校できるようになった」「学習に対して積極的になった」「多くの先生に相談しやすくなった」「学級の差がなくなった」「自分達の学級を自分達の手で作り上げていこうという意識が高まった」といった質問をしている。この中で「多くの先生に相談しやすくなった」は、2回とも「そう思う」「どちらかといえばそう思う」が半数を超えた。一方、「安心して登校できるようになった」は「どちらでもない(学級担任制のときと変わらない)」が過半数を占めるなど、9月と2月で大きな変化はなかった。

ただ、5段階評価の点数は、9月の平均3.20から、2月は3.28と上昇。子どもたちは、「学年担任制」をまずまず受け入れていると読み取れそうだという。

一方で、保護者のほうの評価は生徒より厳しい。

特に「学年担任制を導入したことで、保護者が多くの教員に相談しやすい」という設問には、「そう思わない」という回答が9月で3分の1、2月でも4分の1ほどあった。コロナ禍が収束する前という事情もあったかもしれない。学校側は2月のほうがすべての質問項目で「そう思わない」が減ったと分析をしつつも、「保護者はまだこの制度に慣れていない」と校長の岡本弘次も教頭の佐野も認める。

保護者アンケートの自由記述欄には、2月段階で「いまだにメリットを感じられない。連絡を取るときに誰に連絡したらいいのかもわからないまま」「三年生は、進学の相談もしづらい」といった声が残っているのだ。

ただ、「固定担任制でも保護者から一定の不満は出る」と校長の岡本は割り切っている。そして「学年担任制を検証するデータはまだない。例えば不登校が減るなど、課題が少しでも薄まるようなデータを示す必要がある」とみる。

岡本の前任校は小学校だった。「小学校では教科担任制はあるが、人が足りない面もある。いきなりやれと言われても躊躇するのではないか」という。

小学校で「学年担任制はどの程度取り組めているのか。栗ケ沢中学校の学区の小学校も訪ねることにした。
 
(文中敬称略)
 

(4)「できること、できないことを確認しながら」

栗ケ沢中学校の学区には二つの小学校がある。そのうちのひとつ、貝の花小学校でも、少し学年担任制に取り組んでいると聞いた。児童数は300人を少し超えるほどで、各学年2学年ずつの小さな学校である。5月に訪ねた際、対応してくれたのは教頭の渡辺雅代。

いざ始めるとなると、教員から不安の声や「1学年2クラスだとあまり代り映えしないのでは」という意見も出た。このため「できることと、そうでないことを確認していこう。気負わずにやろうという姿勢で始めた」と説明する。始めたのは2022年度からで、高学年の教科担任制も同じ年のスタートだった。

実際に担任を入れ替え始めたのは5年生が2学期から。一人の担任が大けがをして休まざるを得なくなったため、急遽、教科担任がカバーに入るなどし、週2回、朝の会、清掃や休みの時間、帰りの会に別の教員が入るようにした。週2回は1限目に教科担任の授業があったため、朝の会から入るという方式をとったのだ。

「低学年は学校に慣れることが優先だし、家庭や児童理解、給食のアレルギーの問題もあるので、担任が変わるのは心配」だが、「児童の指導上の問題があった時には、こういう仕組みがあると学級に入りやすい面はある」と渡辺はいう。2クラスだとベテランの先生と若い先生が組むことが多く、経験の差をカバーできるからだ。ただ小学校には副担任に当たるような教員がいない。「2クラスを3人で回せるなら」と思う。

保護者へのアンケートはとっていないが、やめてほしいという声を聞くわけでもない。

児童への2022年度のアンケートは6月下旬と1月末から2月初旬にかけて実施した。「学年担任制や教科担任制は、中学校に役立つと思いますか」という2月の設問には、5年生で9割、6年生でも8割が肯定的評価をした。

ただ、「自分の学級にいろいろな先生が入ることで、自分の変化に気づいてくれたり、ほめたりしてくれるようになりましたか」と言う設問の肯定的評価は、学年別で6年生がもっとも低いという結果も出た。教育委員会への報告書では「教員の声かけが一部の目立つ児童に偏っていたのではないかという意見も出た」と伝えている。

教頭の渡辺は「この学校では講師がかなり多かった時代もあり、(学年担任制で)若い先生が学べるというメリットがあることは確か。教員からは、他のクラスに入りやすくなったという声もある」という。ただ、「学年担任制」よりも「チーム担任制」や「学年担任輪番制」という表現のほうがしっくりくるとも。

今年度は音楽専科と外国語を担当する教務主任を交えて、5、6年生を6人のチームで見ていこうとしている。低学年も含めて「学年チーム制」という呼び方で、複数の眼で児童を見ることを徹底し、学年間で週1回、生徒理解のために情報交換をする時間も設けた。

「(学年担任制に)決まった形はない。毎年、教員の配置で変わる」と渡辺。この仕組みは学校によって千差万別かもしれないと思えてきた。

次に松戸市が参考にするために視察した茨城県取手市を訪ねることにした。生徒の自死事案が、制度を導入するきっかけになったのだと聞いた。

(文中敬称略)
 

(5)自死きっかけ、再発防止策として

茨城県取手市では、「学年担任制」ではなく「全員担任制」という呼び方をしている。取手市の「全員担任制」は2020年度から全中学校6校で導入された。いわばトップダウンでの導入である。初年度は高校受験を控える3年生を除いたが、2年目から全学年にした。

なぜ、全中学校での導入になったのか。話は2015年度までさかのぼる。この年の11月、中学3年生だった女子生徒がいじめを苦にして命を絶ったのだ。「全員担任制」はそうした事案が2度と起きないための再発防止策を考える中で導入された。

この事案で、取手市教育委員会は2016年に調査を始めたが、教育委員会議でいじめ防止対策推進法にもとづく重大事態に当たらないと議決したうえでの調査だったことが判明。違法性を指摘されて調査委員会は解散を余儀なくされる事態となった。

改めて茨城県に設置された調査委員会が2019年3月にまとめた調査報告書は、この事案を以下のようにとらえている。

担任教諭の学級運営や指導等の言動が,クラス内の生徒の関係性に変化をもたらし,本件生徒に対するいじめを誘発し,助長した,という点に大きな特徴があり,生徒のいじめと担任教諭の指導等が,いわば一体的に,補完し合いながら,本件生徒を心理的に追い詰めていったとみることができる事案である。

報告書には、生徒と担任の関係も詳しく記されている。女子生徒がいた3年生のクラスで7月に実施された学校生活に関するアンケートでは、「先生は生徒の相談に親切に応じている」との項目に対し、少なくとも3分の1の生徒が「あまりそう思わない」「そう思わない」と回答していた。

担任自身が「学年が上がるにつれて,生徒との距離が心理的に離れてしまったと感じたと述べており,生徒の方から担任教諭に腹を割って相談してくるという関係性が失われ,生徒に対する指導も上手くいかない状態となっており,その思いを抱いて日々生徒に対応していた様子がうかがえる」と報告書は記す。

さらに、「生徒を放置したり,無視したりする一方で,日頃ルールを遵守する生徒には厳しく指導する傾向が見られた。担任教諭は,問題行動を起こす生徒に対する具体的指導のあり方について苦慮していた様子はうかがわれるものの,積極的に学年会に諮るなどして他の教員らと有効な指導方法を協議し,工夫して対応していた様子は見られず,一人で抱えて持て余していた様子がうかがえた」。

そして、当該中学校の教員が本件生徒の自殺前にいじめを認知できなかったことについて、報告書は以下のように記している。

たとえ,ささいな兆候であっても,いじめではないかとの疑いを持って早い段階から複数の教職員で的確に関わり,いじめを隠したり軽視したりすることなく,積極的に認知する必要がある。

そのためには,日頃から生徒の見守りや信頼関係の構築等に努め,生徒が示す小さな変化や危険信号を見逃さないようアンテナを高く保つとともに,教職員相互が積極的に生徒の情報交換を行い,情報を共有する必要がある。

こうした指摘を受けたからこその「全員担任制」だった。導入前には、私立横浜創英中学高校に転じる直前の東京都千代田区立麹町中学校の校長、工藤勇一も招いて話を聞いた。工藤は麹町中で「全員担任制」を導入していた。

当時、取手市教育総合支援センターで再発防止策を考える推進役の立場にあったのが松戸孝泰である。筆者の訪問先は、松戸がこの春から校長に就いた戸頭中学校となった。
(文中敬称略)
 

(6)複数の教員が児童生徒を見る

取手市では「全員担任制」導入の目的がはっきりしていた。複数の教員が様々な視点から生徒を見て、多面的な理解と多様な関わりをすることと、生徒の不安や悩みに気づき、具体的な対応ができるチーム体制をつくることの二つだ。このため、教育相談部会という組織を各校につくった。「全員担任制」と「教育相談部会システム」は車の両輪だという。

戸頭中学校校長に就いた松戸からも、「複数の教員が生徒を見る」という言葉が繰り返し口をついて出た。

教育相談部会は管理職、教育相談主任、学年担当者、スクールカウンセラー、学校連携支援員、スクールカウンセラーのスーパーバイザーなどに加え、必要に応じてスクールソーシャルワーカーなども参加する。この組織は小学校も含めて市立20校全校で設置され、中学校では週1回、小学校では月2回のペースで開かれることになっている。週1回というと、曜日によっては同じ日に別の中学校でも開かれていることになり、かなりのハイペースである。

ちなみに、小学校では「全員担任制」とは呼ばず、「チーム指導」と呼んでいる。学級担任以外の教員が担当する時間を、低学年から中学年、高学年と徐々に増やしていく。1学年2学級なら、1人が2学級分の社会科を、もう1人が2学級分の理科を担当したり、1学年1学級なら6年生の教員が5,6年の理科を担当したりする。これだけだと教科担任制だが、朝の会、給食指導や清掃指導の時間にも、学級担任以外の教員が学級を指導する。複数の教員が児童を見るという狙いは同じだ。

中学校での全員担任制で、担任する教員が交代するサイクルは、1週間や1か月など、学校の実情に応じて実施している。学級活動や道徳、総合的な学習の時間の授業も、交代で指導できるよう工夫する。学校への連絡や相談、定期的な面談は、生徒や保護者が希望する教員を選ぶことができる。

初年度の中学2年生のアンケート結果(695人回答)では、「いろいろな先生と話をすることが増えた」という質問に、「とても思う」「そう思う」が合わせて79%に達した。

また2022年12月の全学年アンケートでは、30項目を超える様々な聞き方をしている。生徒の心の機微を一生懸命つかもうとしていることがこの聞き方もよくわかる。

「好きなことや自信のあることをほめてくれる」「自分の得意なことやよいところを活かしてくれる」「自分の得意なことやよいところを認めてくれる」の3つの設問も、回答の数字は微妙に違うのだ。

「全員担任制」に直結する設問では、「学校には悩み事や不安を相談できる先生がいる」に「そう思う」が67%、「学年のいろいろな先生と話ができることはうれしい」に「そう思う」が74%となるなど、おおむね肯定的評価が高いという結果が出ていた。

「全員担任制は教員の文化になかったことだが、子どもたちのほうが受け入れるのが早かった」と松戸。「ただ、少数の声なき声をどう拾うかに知恵を絞る必要がある」
 
(文中敬称略)
 

(7)情報の引継ぎと可視化

「全員担任制」(学年担任制)は、ある意味で若手教員に無理をさせず、生徒との付き合い方を学んでいく良さが実感できる仕組みだと言える。一方で、「学級づくりこそ教師の醍醐味」という声もある。戸頭中学校でも、他市から転任してきた教員が物足りなさを感じたという声もあるようだ。しかし、校長の松戸が「主役は生徒。クラスはみんなでつくるもの」という立場を崩すことはない。

会議室に若手教員も含めた何人かの教員に集まってもらった。担任が変わる以上、どういう情報をどうやって引き継ぐかは大事だ。また、生徒から集めるもの、生徒に配るものも少なくないため、「密に情報を共有しないとこの仕組みは成り立たないが、すべては引き継ぐわけにはいかない。新たに入ったクラスは部外者として入った感覚になる」と学年主任。ただ、2日もするとその感覚は消えるという。

「子どもたちの変化に気づく機会が増える。自分のいいところを見てくれていると思うと子どもたちの自信につながる」と若手の担任。男女で入れ替わるのも有効という声もあった。

一方で、学年全体で生徒を見ていく以上、学年主任の負担は大きくなる。情報共有はどうしても放課後の勤務時間外になってしまう。生徒指導上の課題は翌日に回せない。

そしてやはり、「こういうクラスにしたい、年間を通して子どもたちの成長が見られたらいいなあという思いはある」と別の担任。教員はさまざまな葛藤の中で「全員担任制」に取り組んでいることがわかった。

複数での授業や給食指導の様子を見たあと、職員室ものぞかせてもらった。クラスの情報共育のためのホワイトボードには「戸頭アラート」の文字が目立つ場所にあった。アラートの文字の下には「目指せスリーブルー」とある。

学年ごとに、「頑張っています」だと青色、「様子をみていこう」だと黄色、「緊急案件です」だと赤色のマグネットを張り付ける。それぞれの学年の状況を見て、いざというときは学校全体でも取り組めるようにするための一目瞭然の掲示板だ(写真)。



ボードは三つとも青。スリーブルーが達成されている状態だった。こんな風な可視化の仕方もあるのかと思った。

取手市は「全員担任制」の視察が相次ぐが、筆者があちこちで「学年担任制」を話題にしていたら、「うちでもやっていますよ」という情報が飛び込んできた。
(文中敬称略)

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「学年担任制」を考える

(8)「チーム学年経営」を大々的に展開

「学年担任制なら、うちでもやっていますよ」と声をあげてくれた一人は、横浜市鶴見区にある市立上寺尾小学校の校長、広木敬子だった。筆者が理事を務めるNPO法人「共育の杜」で、管理職や管理職をめざす人たちが学ぶ未来塾の1期生である。
その広木から「チーム学年経営 サポートブック」という冊子を見せてもらった。横浜市教育委員会が2020年2月に発行しており、冊子のサブタイトルには「学級担任から学年担任へ」とある。使われている言葉から推し量ると、学年担任制とあまり変わらない制度だと受け取れる。

冊子の冒頭には、横浜市では、2018年度から「小学校高学年における一部教科分担制の導入による学年経営力強化事業」を展開している、とある。この「チーム学年経営」は有識者会議も設けて検討されてきたようで、取材不足を恥じるしかなかった。

冊子によると、「チーム学年経営」の最大の特徴は学級をもたない学年主任(チーム・マネジャー)の存在である。

小学校では学年主任は学級担任をもちながら担うのが一般的だ。

「一日のほとんどを自分の学級で過ごすことになるため、学年全体のマネジメントを行うことが難しい場合があります」と冊子は記す。

そこで、学年全体を俯瞰してみることができる立場の「チーム・マネジャー」を配置して、学年経営のリーダーとして動いてもらうというのだ。

冊子では、チーム・マネジャーの仕事の例として6つを挙げている。

経験年数の浅い教員の人材育成、分担する教科等の調整、少人数指導やTTなど臨機応変な指導体制への対応、学年研の企画・運営、休暇取得等の調整、毎週の時間割の調整である。確かに、授業をもたない教員がこれらを担当できれば理想的だろう。

冊子には、具体的に取り組まれている小学校の例として、曜日ごとに担任が交代する学校まで紹介されていた。4クラスの学年にチーム・マネジャーを含めて「5人全員を自分の担任だと捉えてほしいと考えた」とある。チーム・マネジャーはどのクラスにも入れる形だ。

この事業の推進校として、横浜市教委は2018年から2019年にかけて8校、2020年度から2021年度にかけて24校を指定していた。その後はどうなっているだろうか。チーム・マネジャーの人員をどうやって編み出すのか。わいた疑問を確かめたいと考えた。

担当の教育課程推進室の指導主事によると、この仕組みは、文部科学省が教科担任制を充実するための教員の加配を使っている。横浜市教委では、文科省が優先的に充てる方針を示した理科、算数、外国語、体育を8コマ以上持つことを条件に、非常勤講師を1人加配。そこでやりくりして、担任をもたないチーム・マネジャーを編み出すのだという。

ただ産休や育休、病休など、必ずしも計画通りにはいかないのが人員配置だ。個々の教員の担当を決めるのは学校であり、担任をもたないことは必須条件ではなさそうだ。担当者も説明の中で、「担任を持たない」ことに「原則として」という言葉を添えた。

「チーム学校経営」の学校の評判はよく、2022年度の時点で、横浜市内の全市立小学校の半数を超える188校で実施されているという。さらに2025年度には市内の全小学校に広げる方針なのだそうだ。

本来なら実施校をたくさん回るべきなのだが、まずは188校のひとつでもある広木の学校の実情を紹介しようと思った。上寺尾小学校には担任をもたない学年主任はいないが、「学級を開いて、教員みんなで子どもたちを見ていこうとするには、市全体でチーム学年経営に取り組もうとしていることは、間違いなく追い風になっている」と広木は言う。話を聞いていくと、「追い風」が必要な理由も見えてきた。
(文中敬称略)

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「学年担任制」を考える

(9)“スジ屋”の副校長と二人三脚

広木敬子が校長を務める横浜市の上寺尾小学校は、各学年3学級に個別支援学級7学級、児童数600人強の学校だ。教員の平均年齢は32歳とかなり若い。20代後半や30代前半の学年主任もいる。それだけに、担当する教科を3人で決めてというわけにはいかない場合もある。若手の育成という要素を抜きに「チーム学年経営」は語れない。

「複数の眼で子どもを見取りたい。子どもにとっても複数の先生を頼ることができる良さがある 」と広木。それ だけでなく、「経験の浅い教員 がつぶれずに、自走していけるようになるための仕組みでもある」という。

その中で広木が頼りにするのが副校長の杉山貞文である。誰がどの学年のどの教科を担当するかを示す教科担任表を組むのは杉山の役割だ。今年度は昨年度の経験を踏まえて、全学年で教科担任(分担)制に踏み切った。

その資料を見せてもらったときに、筆者は鉄道のダイヤグラムをつくる専門家の“スジ屋”を連想した。

杉山は副校長4年目だが、以前の学校での取り組みを昨秋、区 の副校長会で披露している。その学校も各学年3クラスの学校だった。

1年生と2年生は体育、音楽、図工を2コマずつ交換。20時間以上の時数を費やす水泳と運動会練習は学年単位で行う。運動場の枠も学年単位で確保。ただ、この年は2年生に初任者がいたので、非常勤の教員が2年の全学級の図工を担当し、初任者研修を受けやすいようにした。

3年生は図工・書写、理科、体育を3コマずつ交換。音楽は専科が入った。学年主任が教務主任でもあるので、国語は別の教員に週3時間持ってもらうなど、負担を減らした。4年生は体育、社会、理科を3コマずつ交換。音楽は専科が入り、書写も非常勤が担当した。

4年生の担任の1人は教員4年目だったが、過去3年間で体育は1度だけ、理科は経験がなかったため、体育も理科も半期ずつ経験させたい と考えた。また、児童指導に定評のある1人が前期に体育を担当することで、「3クラスとも同じように聞き方や学び方の基本的な習慣を身に付けさせることを狙った」という。

5年生は外国語・書写、社会、理科を3コマずつ交換。担任の1人は外国語活動の推進役 だったため、空き時間を教材研究や授業研究に充ててもらうことにした。6年生は体育、理科、社会を3コマずつ交換。児童全員が各教科の係を担当し、連絡役になった。教科担任からの連絡をほかの児童に伝える形で責任を持たせた。ちなみに5、6年生は、音楽が専科、家庭科と図工は非常勤が担当した。

“スジ屋”は特別教室や体育館の利用もぶつからないようにする必要もある。杉山はほかにもいくつかの工夫をした。

体育は、1校時に3年1組なら2校時は3年2組というふうに、できるだけ同じ学年で2時間続きに組むようにした。専科の授業はなるべく同じ学年の授業を同じ曜日に。そうすることで準備がしやすくなる。

朝会や集会のある曜日の1校時は,体育館での体育や音楽は入れない。低学年の体育は給食の前の4校時を外す。授業開始が遅れたり、早めに終わらざるをえなかったりすることを避けるためだ。

これに、想定外の教員の休暇も出てくる。学校経営は生き物だ。

杉山は「パズルのようなもの」と淡々と話すが、10年以上前の主幹教諭時代から試行錯誤してきたことが副校長会での資料からもわかる。もちろん、上寺尾小でもこの経験を生かして、同じ考え方で教科担任表をつくっている。

教科担任制を取り入れる以上、一定規模の学校なら、こうした割り振りは必要なのだろう。ただ、優秀なスジ屋は、学校運営の基本をつくることになる。

広木は「学校運営に携わり、個々の教員の特性までわかっている立場の者がつくることに意味がある。この仕組みでそれぞれの学年はチームになるし、チームだからこそこの仕組みが活きる」と説明する。

そして「コロナ禍では、いつだれが休んでも学校が回せるようにと考えてきた」。全国の校長たちが、「あの先生が休んだら、その時は…」と気をもんできたのだろう。

広木は、今年度の初めに示した「学校運営方針」の最初の項目に「チーム学年運営(経営)」を掲げた。「どの学年・クラスに入っても、いつでも授業を進め、子どもを見とり共有する」「ピンチの時はエリアを超えて支え合う」といった文字が並んでいる。

次年度はどうするのか。広木はすでに6月の段階で、杉山と人事構想を練り始めていた。
(文中敬称略)
 

(10)5校時までの日課表、道徳の交換授業

行った先々で「学年担任制」について話していたら、もう一人、「うちでも」と答えてくれた人がいた。千葉県流山市の教育長、田中弘美だった。

流山市は、筆者が教育委員を務める松戸市の隣町で、同じ東葛飾地区(通称・東葛地区)になる。この東葛地区の教育長や教育委員が参加する教育委員会連絡協議会があった際、情報交換会で田中と隣り合わせになったので話題にしてみたのだった。


流山市は、つくばエクスプレスの開通以降の人口増で最近も新たな小中学校が開校し、さらに複数の小学校の新設計画が進んでいる。とくに変貌著しいのが東武アーバンパークラインと交差する流山おおたかの森駅周辺だ。


この駅から東武アーバンパークラインで一つ目の豊四季駅が最寄りとなる長崎小学校が、教育委員会から紹介された学校だった。通常学級が全学年3学級の規模の学校である。


校長の山口謙は「たいしたことをやっているわけではないんですが…」と謙遜しながら説明を始めた。


長崎小学校では、朝の会や帰りの会も給食指導も学級担任が行う。出席記録や成績評価なども学級担任が担当児童分の責任をもつ。


一方で、3年生以上では「学年担当制による学年運営」を掲げ、学年内で授業を分担する「教科担当制」とともに、複数で生徒指導や教育相談を引き受けることにしたのだ。


やはり若手教員の育成が課題だという。新規採用教員や担任経験の少ない講師、あるいは他の業務を抱える学年主任などの持ちコマ数は配慮する。ほかの地域でも変わらないように、1人休んだら学校が回らなくなるような事態を避けるための策でもある。


昨年度から試行的に始めた5、6年生に昨年10月、「教科担当制」についてアンケートをとったところ、約90%が賛成という結果が出て、自信を深めた。アンケート結果のまとめには、「前より楽しくなった」「何だかおもしろいです」といった前向きな言葉が並んでいる。


もちろん、残り10%への配慮はすると保護者にも説明しているが、「子どもが納得していればいい」と保護者にはアンケートはとっていない。他の学年の保護者からも、「やらないんですか」と声を聞いたと山口は振り返る。


長崎小では昨年度後期から、朝の会のあとの15分単位のモジュール学習を毎日2コマ設けて授業時間にカウントするとともに、清掃の時間を週何度か短くするなどして、6年生まで5校時で終える日課表をつくった。


こうすることで児童の下校時間は30分以上早くなる。その分、教員同士の打ち合わせや会議、研修の時間に充てることができる。授業準備や、担任ではない学級の子どもの情報交換の時間にも使えるということだろう。


教員ごとの時間割を見せてもらった。各学年で授業を回していることが一目瞭然だ。その中で6年生の道徳だけは別の表記がしてあった。


道徳の時間は特定の単元で教材を統一して交換授業をしているという。教科担任制をとっている学校でも、道徳の授業は担任がやるのが常識だと思っていたが、こういうやり方もあるのかと新鮮だった。


道徳の時間は、日常の生徒指導とも関連が深いだけに、教員にとってはクラスの違いがよりわかる時間にもなるのだろう。その意味では、学年全体で子どもを見る力が増すのだと思った。
(文中敬称略)

(11)学年情報交換会や登校時刻の変更

茨城県取手市を訪ねた際、「学年担任制」(取手市では「全員担任制」)について、遠く熊本市からも視察があったことを耳にして、足を運んでみたいと思っていた。

筆者は今年5月から、熊本市教育委員会にできた教育行政審議会の委員を務めることになった。教育長の遠藤洋路は文部科学省時代から知っている。その縁で委員就任を依頼されたのだ。

熊本市でも「学年担任制」を実施しているなら、その学校に足を運ぶことが、教育行政を語るうえでも得るものがあるはずだ。そう思って、審議会のあった日の午後、その学校を訪ねることにした。その名の通り、市の東部郊外の住宅地にある東野中学校。2016年の熊本地震で震度7を記録した益城町に近く、校舎は大きな被害を受けた。

東野中は通常学級が1年生5学級、2、3年生が4学級で、特別支援学級が計6学級ある。「チーム担任制」を2020年度から1年生で実施、2021年度からは全学年に広げた。

2021年度当初、校長の宗裕紀が保護者に示した文書では、その目的を2つあげた。「担任が変わる(不定期)ことで、生徒がより多くの先生と接する機会を増やし、気持ちのあう先生とのつながりをつくる」「生徒の自己決定の場面を増やし、主体性を発揮して行動する力を育てる」である。

「チーム担任制」のもとでは、「相談事は、どの先生でもいい」「教育相談は学年職員で実施」「通知表は『生徒をよりよく知る先生』が書く」という方針も伝えた。

2022年度当初、教職員に向けた文書では、目的として、「生徒各人の特性(多様性)が尊重されながら、生徒各人に適した学校生活目標を達成させる教育の実現を目指す」「担任に偏りがちな学級事務・生徒指導対応等の負担を、学年職員を中心とする全職員で分担することで、量的・時間的・精神的負担の軽減も期待する」と記した。

宗の頭の中には、「生徒や保護者の学校に対する多様なニーズに、これまでの体制では応えられない」という問題意識がある。

年度当初、担任のローテーションは2週間に1回を基本としたが、生徒と職員の関係や、生徒同士の関係を見極めて、学年主任がローテーションをどうするか管理職に具申することにした。実際には、このローテーションを崩して、数か月、固定した学年があった。

教育相談は生徒の希望に沿った対応をとる。家庭訪問や体育大会などの行事は、可能な限り複数で見るよう配慮する。通知表の所見などは、肯定的に書くことを目的に学年の職員で、書ける(書きたい)生徒を担当するといった方針を定めた。

週1コマ、月曜の6コマ目を、学年情報交換会の時間として、生徒の状況を把握することにした。ただ、3年生は時数が足りないという問題が生じたことから、2023年度は教職員の勤務開始時刻は8時15分のままで、生徒の登校時刻を8時35分に遅らせた。授業前の情報交換の時間が20分とれる。もともと、8時15分からは朝の自習の時間だったが、職員間の情報共有の時間確保を重視し、やめる判断をしたのだった。

その後、9月からは登校時刻を逆に5分早めて8時30分とした。情報交換の時間は15分となるが、5分間は健康観察・諸連絡の時間確保のための時間となった。

教員同士の情報共有の時間は「チーム担任制」を続けるにあたって欠かせないものだ。この仕組みに限らないことだが、最初に考えた仕組みを臨機応変に手直しするのも大切なことなのだろう。

では、子どもたちは、「チーム担任制」をどう受け止めていたのだろうか。
(文中敬称略)

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「学年担任制」を考える

(12)毎学期「相談できる先生はいるか」を聞く

熊本市立東野中学校では「チーム担任制」に関連して、学期ごとに生徒の声を聞いてきた。

2022年度末に行ったアンケートでは、1年生(3月実施)と3年生(12月実施)が「ぜひ続けてほしい」約30%、「どちらかというと続けてほしい」約25%と同じような結果が出たが、2年生(3月実施)は違った。肯定的な評価が両者を合わせても約40%。「あまり続けてほしくない」「やめて欲しい」が合わせて約20%と他学年に比べて多く出た。

この点について校長の宗裕紀は「従来の固定担任制で高く評価できる職員への期待感・満足感が、チーム担任制への否定感につながっている」と説明する。否定的な評価をした2年生にその理由を聞くと、「なんとなく」が最多だったが、「いやな先生が回ってくる」が6人いた。

さらに「相談できる先生は誰か」と、記名式で名前まで上げ聞くと、「誰もいない」という割合が3年生5人、1年生10人に対し、2年生は22人。10人以上も名前を挙げる生徒もいれば、部活動の顧問1人だけの生徒もいてかなりの差がある。

アンケートでは、学校生活、家庭生活、家庭生活、友達関係、学習状況についても聞いている。相談できる先生が「誰もいない」と答えた生徒の中には、学校生活が「あまり楽しくなかった」や家庭生活が「あまり楽しくなかった」と書いている生徒もいるのだ。注意を要する生徒は、できるだけ早く面談をするようにした。

一方、教職員向けのアンケート(無記名式)でも「保護者との信頼関係が作りにくい」「引き継ぎが完全にはできない」といった理由で、「チーム担任制」を「あまり続けたくない」と回答した教員もいないわけではなかったが、「続けてもよい」「ぜひ続けたい」が多数派となった。学年全体で関わることに肯定的なのだ。

「生徒を多角的に見ることができる」「休みがとりやすい雰囲気」「大崩れするクラスが無く、よかった」といった言葉が並んでいる。

「生徒の主体性を育てることと、生徒と対話する姿勢を貫けた。チーム担任制でなくてもできるかもしれないが、チーム担任制だからこそ職員の意識が高かった」という指摘も注目に値するだろう。

「一人で抱えることがなくなった。今までは担任の責任と強く言われ続けていたので、常に自分の担任クラスが崩れないか、ほかのクラスに迷惑をかけないかなど、気を遣う日々だった。みんなでみんなを育てる感覚がありがたかった」

この記述からは、保護者の苦情などトラブルを抱え込んでしまいがちな若手教員の本音が見える。

校長の宗が「責任は校長しか取れないと年度当初、職員に話している。学校には、責任を背負わなければならない文化がある。責任を押し付け合う文化をなくしたい」と強調するのは、苦情を受けることが多かった教育委員会勤務時代の経験があるからだ。

「学校がどこまで多様性を受けいれられるか、という時代。先生も個性的であってほしい。そうでなければ多様な子どもたちに対応できない」「世界で通用する、世界で活躍できる人になるには、均一性を求める社会ではいけない」とも。そのための「チーム担任制」でもあるようだ。

ただ、東野中学校に同行してくれた元教育次長の松島孝司によると、「チーム担任制」は市内のほかの学校でも試みられたことがあるが、校長の異動とともに取りやめになり、現在はここだけだという。

校長が替われば担任の仕組みを変わってしまう。そんな事例は熊本市だけの話ではない。
(文中敬称略)

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「学年担任制」を考える

(13)生徒も教職員も主体的に思考する

「チーム担任制」で奮闘しているパワフルな校長は、名古屋にもいた。名古屋市立八幡中学校校長の高橋幸夫。この中学に赴任して4年目になる。

「チーム担任制」が取り組まれていることは、テレビ番組を見て知った記憶がある。番組の冒頭、記者に「このクラスの担任の先生の名前は?」と聞かれた八幡中の生徒が、「〇〇先生と〇〇先生と〇〇先生と〇先生と〇〇先生です」と5人の名前を答えているのが印象に残った。

八幡中は名古屋市南西部の中川区にある。名古屋駅からそれほど遠くない。京都出張のおりに途中下車することにした。滞在時間は学校が夏休み中の2時間足らずだったが、それでも十分に圧倒される内容の話が聞けた。

校長の高橋の口から最初に飛びだしたのは「いまは明治維新が来たようなものだと思っている」「いまの学校はオワコンだと思っている」という発言だった。「学校が社会の変化に追いついていない。学校は役に立たないことをやっている」という思いが強い。

そして「本校の最上位目標は<主体的に思考し、表現する集団>だと明言し、「生徒だけでなく教職員もそう。この目標に合わないことはやめてしまおうと言っている。生徒の大半はこの最上位目標が言える」と言ってのける。

「最上位目標」と聞いて思い浮かぶのは工藤勇一である。東京都千代田区立麹町中学校の改革が全国の注目を集め、麹町中の改革を紹介した『学校の「当たり前」をやめた。― 生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革』(時事通信社)という書籍も評判になった。いまは横浜市の私立創英中学・高等学校の校長に転じている。

これまで工藤の話は何度か聞いてきたが、「最上位目標」は工藤が繰り返す最大のキーワードかもしれない。八幡中の高橋も麹町中を見学したひとりだ。そして、工藤も改革のひとつとして「チーム担任制」を導入したことはよく知られている。

高橋は、最上位目標である「主体的に思考し表現する集団」の例を上げる。

たとえば関西への修学旅行。2022年度から、生徒がスマートフォンを持参できるようにした。2023年度は、そのスマホで使えるように旅のしおりを、生徒たちが電子データで作った。確かにいま社会に出れば、紙のしおりより電子データを使って旅をするのが普通かもしれない。しかも、スマホをもっていない生徒向けに、訪問先のひとつであるユニバーサルスタジオジャパンについてのオリジナル資料も作って紙で持ち歩けるようにした。

高橋によれば、以前の八幡中は生徒を規則で押さえるような学校だったというが、TPOをわきまえれば、イヤリングなどのアクセサリーや化粧も認めるようになった。

そんな高橋が「生徒が主体的に思考するように」という狙いで「チーム担任制」の導入を考えたのは必然だった。このテーマで取材を始めてから、「学年担任制」(チーム担任制)を導入した結果、生徒が主体性をもつようになるという話をあちこちで耳にしていた。ただ、ここまで効用として生徒の主体性を強調する高橋のような校長はそう多くはない。

「担任の言いなりになるようなクラスを作らないために」、そして「担任と合わない不幸な子を作らないために」。そんな言い方で「チーム担任制」を提案したのは、赴任して2年目の2021年のことだった。

もちろん、1日交代だったり、1週間単位だったり、試行錯誤があった。2022年度も、チーム担任制と学級担任制のどちらを選ぶか、学年ごとに決めるよう求めた。2023年度もやり方は学年によって違う。教職員にも主体的に考えてもらいたいと考えている。

テレビにも登場した30代の進路指導主事の教員が「最高ですね」とまずひとこと。「八幡中学校へ転任してきた当初、学級担任が教員としての生き甲斐であったので、自分のクラスがないということが寂しかった。しかし、今は僕のクラスではなく僕の学年という気持ちで見ることができるようになった」と話しているという。

校長の高橋は「学級担任が教師の醍醐味だと言われると、僕もそうだったから、わからないではない。でも、生徒が教師に頼らず自分で思考するほうが面白い。チーム担任制にデメリットは何もない」と満足げだ。
(文中敬称略)

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「学年担任制」を考える

(14)生徒が学校運営に「参画」



主体性を育む名古屋市立八幡中学校の取り組みは徹底している。

応接室という名の校長室の前にはデジタルサイネージがあって、夏休み中も10月に行われる学校祭「第1回八幡祭」のことが表示されていた。平日の2日間、午前中だけで、体育祭と文化祭を一気にやってしまおうというのだ。

主催は生徒会。ここにも<主体的に思考し表現する集団~誰もが「楽しい」と感じられる学校を目指して~>と最上位目標が記されている。学校祭の詳しい内容は聞き洩らしたが、生徒たちの意見を取り入れたらこうなった。サブタイトルの<誰もが「楽しい」>で想像はできる。

2021年度からこのデジタルサイネージやタブレット端末を使って1日の日程を伝えるようにし、担任から朝の連絡をやめて、生徒が自ら日程を確認するようにした。校則見直しに対応できないと生徒手帳は廃止、QRコード付きのIDカードに最新の校則や避難訓練の状況などを表示できるように。欠席や遅刻の連絡も保護者がアプリを使ってメールで連絡するようにした。コロナ禍で重要だった朝の体温や健康状況は生徒が登校後にタブレットに入力、養護教諭をはじめ全教職員が生徒の健康状態を把握できるようにした。

週1回、水曜は部活動と別にサークル活動の曜日とした。生徒の「やりたい」を具現化するためで、eスポーツ、フラワーアレンジメント、スケートボードなどの活動が始まっている。こうすることで地域の住民の協力も幅が広がるというメリットもある。

ドローンを使ったサッカー、VRゴーグルを使った跳び箱など、最先端の技術の活用にも積極的だし、自由進度学習に取り組む教科もあるが、話を聞くにつれ、生活面の見直しが、授業以上に生徒の主体性を育むことに影響を及ぼしているように思う。

2020年度から猛暑の時期の服装の第3の選択肢として、制服と体操服以外にTシャツにハーフパンツでもよいことにした。教職員からは「Tシャツは白であるべき。ワンポイントであるべき」といった意見も出たが、生徒に選択の機会を与えようと押し切った。結果として問題は起きず、1時間目が体育の日は体操服で登校し、体育の授業後にTシャツとハーフパンツに着替える生徒も現れた。

校長の高橋曰く「生徒を学校改革に参画させる」というプロジェクトがいくつも動いている。新制服プロジェクトではすでに、生徒の意見で新しい制服が決まった。生地選びから生徒が関わった。

2023年9月の時点で現在進行形のものとして、ルールメイキング(校則等の見直し)プロジェクト、校内自動販売機設置プロジェクトなど、5つが動いている。

名古屋市内の中学校では、校内に自販機を設置した例はこれまでなかった。校内自販機設置プロジェクトのメンバーは、すでに飲料メーカーの担当者とも会って、全校集会で見せたプレゼンテーション用のスライドを家庭にも配布した。保護者の賛同署名を集めるためだ。

自販機設置が部活動などの際の熱中症対策になること、災害発生時にはライフラインとして活用できること(具体的にはメーカーが自販機の中身を無料で地域住民に提供する連携協定まで結んでいること)、生徒の「自主・自立・自律・自治」が生まれるので、飲み終わった後のゴミやお金の管理もできることなどを訴えている。スライドの内容は大人顔負けである。

「小さな自己決定の連続」が大事なのだと、高橋は強調する。筆者も全く同感である。あえて加えるなら、自分たちの活動で学校という社会がわずかでも動いたという経験を積み重ねることが、これからの社会をつくっていく子どもたちには重要なのだ。

そして、生徒が主体的に動くようになるきっかけをつくったひとつの仕組みが「チーム担任制」と言えるのだろう。
(文中敬称略)

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「学年担任制」を考える

(15)「改革を引き継ぐ後任者を」

さまざまな改革を進める名古屋市立八幡中学校校長の高橋幸夫は元々、美術の教師だった。それを聞いて柔軟な発想の源がわかったような気がした。

筆者の頭に、別の美術教師出身の校長の顔が浮かんだのだ。やはり柔軟な発想で中学校の改革を進めて全国的に注目を集め、2023年春に退職した北海道の女性校長である。

まず八幡中の保護者はチーム担任制をどう見ているのか。「8割方は大賛成。いい担任の先生との思い出のある人は、そうでないかもしれない」と認める。

地域住民はどうだろうか。当初は学校評議員会などでも奇異な目で見られた。だが、チーム担任制や生徒の主体性を認めるいくつもの改革で、生徒が変わっていく様子をみて地域の大人たちも意識が変わったようだ。

改革が知られるようになって八幡中の校区に住みたいと考える保護者も出始めているという。八幡中のある名古屋市南東部の中川区は、ほとんどが海抜ゼロメートル地帯で工場が多い下町だ。その中で目立つ存在になっていることは間違いないだろう。

名古屋市では西部郊外の地域でもチーム担任制に取り組む中学校があるというが、八幡中ほどの成果は得られていないという。それでも「チーム担任制にデメリットはない」と高橋は繰り返す。

もう一つ気になるのは、校長の高橋は定年まで1年余りということだ。校長が交代したら、生徒の主体性を尊重する八幡中の教育は変わってしまうのだろうか。

「マインドが同じ校長に引き継いでもらいたいんです。そのことは教育委員会にも伝えてあります」と高橋は言う。

東京都千代田区立麹町中学校でも、あの工藤勇一の退任後、改革の方向が変化していること言われる。高橋の発言も、このことと無関係ではなさそうだ。八幡中では2022年度まで毎年複数の教員が入れ代わり立ち代わり麹町中に足を運んできた。

名古屋市の教育長を2022年度から務めるのは文部科学省出身の坪田知広である。その坪田も八幡中を視察している。

坪田は「生徒本意の改革や、生徒からの発案を何とか実現しようと校長、教職員が知恵を絞り、『最後は校長が責任をもつ』という姿勢でやり遂げている点が素晴らしい」と評価する。さらに「教育委員会としては、高橋さんのような校長をロールモデルとして推していきたい」と話している。
(文中敬称略)

(16)「1人1箱は限界」

夏休み明けに富山県南砺(なんと)市を訪ねることにした。南砺市の名前は「学年担任制」(チーム担任制)を導入しているあちこちの自治体で聞いたからである。

しかも富山県には、「共育の杜」のメールマガジン執筆者の一人で、魚津市の小学校教諭、能澤英樹がいる。能澤は筆者が理事を務めるNPO法人「共育の杜」の「学校の働き方改革推進チーム」のメンバーだ。

南砺市は富山県西部の山あいにあり、魚津市は東部の海岸沿いにあるが、東京から北陸新幹線で向かうと通り道である。能澤に会うチャンスだと思った。

能澤はメルマガに転載しているブログで、「チーム担任制」「全員担任制」についても以下のように書いている。(「学級経営」は必要か=2023年3月20日配信)


(学校の働き方改革と子どもたちの幸せを両立するためには)考えれば考えるほど「学級経営」というものが大きなネックになっていると思わざるを得ないのです。

同調圧力をベースとした学級経営が、子どもたちや教員の中のマイノリティ弱者の上に成り立っているのであれば、この「不自然な」運営を見直し、もっと「自然な」やり方に変えていく段階にある。

その先に「チーム担任制」や「全員担任制」があるというのだ。

この内容は8月に能澤が出した新著『先生2.0 日本型「新」学校教育をつくる』(さくら社)にも盛り込まれた。「未来の学校を描く」の章で「脱・スーパー教員」という小見出しをつけている。書き出しは以下のようになっている。

学校の働き方改革と子どもの幸せの両立のために、「得意をもった平凡教員」という概念を提案する。「スーパー教員」と逆である。

マスメディアも「スーパー教員」を追いかけたがる。しかし、何十万人もいる教員の世界が「スーパー教員」だらけになるわけがない。普通の教員が普通に成長していける環境こそが必要なのだ。ただの普通ではなく、それぞれの得意分野を生かしていこうと考える方が理に適っている。若手が増えているいまの学校にはなおさらである。

能澤はこうも書いている。

「1人の教員に1つの教室をあてる」という発想は、平等を大切にする日本人には馴染みがよすぎて、それを疑う気にもならないかもしれない。しかし、授業が得意な教員は授業を多く受け持ち、事務が得意な先生は事務を多く請け負うというような横断的な業務の割り当てをすすめていけば、すべてを高いレベルで完結させるスーパー教員である必要はなくなる。

例えば、生活指導にしても、学校のすべての教員が「悪いことは悪い」と子どもの問題行動に目を光らせるのではなく、厳しく叱る父性型の教員、まずは受け入れる母性型の教員、子どもと一緒に行動したり優しく相談に乗ったりする兄・姉型の教員などのタイプ別に分かれれば、教員も自分の個性が出せて働きやすいし、子どもも自分に合った教員を選べて安心である。


そうやって、チーム担任制を勧め、南砺市でのチーム担任制にも触れているのだ。

能澤が車で迎えに来てくれる北陸新幹線の黒部宇奈月温泉駅に降り立ったのは初めてだった。富山は筆者の新聞社時代の初任地だが、勤務したのは40年も前のことになる。当時、新幹線の計画はあったものの、いつ着工するかさえ見通せない時代だったのだ。

駅から市街地に向かう道は田園地帯である。コメの出来が話題になった。猛暑で夜も気温が高いと呼吸でデンプンを消費してしまうため都合が悪いのだという。休日のこの日も日中は稲刈りだと聞いていた。この地では、教員であれサラリーマンであれ警察官であれ、休みには田植えや稲刈りをする兼業世帯は珍しくない。その点は昔と変わりないようだ。

能澤に会って南砺市の教育改革の見方を指南してもらうのも面会の目的の一つだったが、裏話はとりあえずここでは蓋をしておくことにする。
能澤は著書と同じように「1人1箱は限界なんです」と繰り返した。1人の教員が一つの教室の子どもたちをみること自体に無理があるという訴えだった。
(文中敬称略)

(17)15年前の論文に当たる

富山県魚津市の小学校教諭、能澤英樹は2016年から6年間、富山県教職員組合の書記長や委員長を務め、地元の過労死裁判に向き合った。それ以前に朝日新聞の「花まる先生」に登場したこともある。教育実践家としても実績のある人なのだ。

話を聞くうちに、能澤は富山県教育会が募集した教育論文で賞をもらった経験があることも口にした。

調べてみると、富山県教育会が創立120周年記念で募集し、2番手に当たる優秀賞をもらっていた。2008年のことだ。そこにはすでにチーム担任制のことも書いているという。

これはその論文を入手するしかないと思った。南砺市を訪ねた帰り道に富山教育会の事務所を訪ねることにした。突然の来訪に驚かれたものの、事情を説明するとコピーをくれた。(『富山教育』第895号(平成21年1月)所収)

タイトルは「教師の資質向上対策が真に効果を上げるために」。その資質向上の具体策の一つとして、「教師の適性に応じた仕事のシェアと評価」を挙げ、「チーム担任制による個々の適性を生かした役割分担」が必要だとしているのだ。

ここでも、別の論文を参考に、カウンセリングマインドをもった「母親役」、厳しさをもって子どもたちをしつけると「父親役」、一緒に遊び、時には悩みを聞く「ガキ大将役」の三つを、個々の教師に役割付けることを提唱している。

例えば、経験の浅い教師は、テストやプリントの採点や教材作成、環境整備等の仕事を多く担当。授業では主に基礎・基本を教え、指導の基礎を学んでいく。ベテラン教師は、学年全体の運営を担当してチームを常に評価、問題行動の多い子どもへの対応やモンスターペアレンツへの対応など、経験が生かせる仕事を担当し、授業では高度な学習を担当。中堅教師は、子どもたちの前面に出て、よりよい実践を若手に示したり、ベテラン教師を助けたりしながら学年運営を支えていく、といった説明をしている。

こうした役割分担の前提としてすでに、教師の世界でも「ワーク・ライフ・バランス」が注目されていること、家庭をもつ多くの女性の教師への影響、ひとつの職に縛られない考え方の広がり、採用試験の低倍率化などを掲げて、

学校現場は、「若手」「ベテラン」の二極化だけではなく、「やる気があり、力を発揮する教師」「力を発揮できない、または発揮しようとしない教師」の二極化が進む可能性がある

と危惧している。

能澤は「論文で主張していたことをその後の実践で証明できた」と振り返る。そのうえで「年配の教員の固定観念が壁になる」ともいう。こう考えていくと、チーム担任制は当然のことながら、やはりチームの組み合わせが大事になってくる。

さて時間を少し戻して、全市でこの仕組みを取り入れた南砺市はどうなっているのだろうか。能澤に会った日の夜は、南砺市に朝から向かいやすいように富山県西部の高岡市に泊まった。このまちこそ、筆者が約40年前に2年間過ごしたまちなのだった。
(文中敬称略)

(18) 南砺市の地域事情

チーム担任制を全市で導入している富山県南砺(なんと)市に向かう前夜に泊まったのは、新聞社に入社して最初に赴任した高岡市だ。赴任は約40年前のことになる。

その後も訪れたことはあったが、ここ15年ほどはご無沙汰だった。記者として最初に取材して回った地域なので、どうしても詳しく説明したくなる。

高岡市は「呉西」(ごせい)の中心都市だ。富山は小さな県だが、呉羽山という小さな山を境にその西側を「呉西」、富山市以東を「呉東」(ごとう)と呼ぶ。

高岡市は石川県金沢市と富山市という二つの県庁所在地の中間地点にあることになる。銅器のまちとして知られるが、デパートの撤退など商業都市としての地盤沈下が深刻だ。

早朝、駅周辺を歩いてみて、その様変わりに驚いた。駅前で昔の面影が残るのは、奈良時代にこの地の国司を務めた歌人大伴家持の像ぐらい。万葉線の路面電車は鮮やかなスカイブルーの車体になり、前面にドラえもんが描かれていた。作者の藤子・F・不二雄は高岡市出身である。少なくとも玄関口は整備が行き届いているのだった。

ドラえもんが描かれた路面電車は高岡駅から富山湾のある北に向かうのだが、南砺市は逆に南に向かうJRのローカル線、城端(じょうはな)線に乗る。市役所(市教委)のある福光駅まで40数分かかる。

数駅先で通学の高校生が降りると車内はがらんとした状態になり、そのまま目的地にたどり着いた。車で来たことはあるが、鉄道で降り立ったのはおそらく初めてである。

南砺市は2004年に4町4村が合併してできたので、筆者が勤務していた時代には南砺市は存在しなかった。4町とは福光、福野、井波、城端、4村とは平、上平、利賀、井口である。合併時に約6万人だった人口は5万人を切った。出たばかりの市勢要覧に「2060年には人口が2万2千人台まで減少するとの推計もあり」と記している。

以前の自治体別だと、旧福光町には小中学校が複数あるが、他は小学校と中学校各1校か、小中を統合した義務教育学校1校で、旧平村と旧上平村の小中学校はそれぞれ統合して、上平村は小学校だけ、旧上平村は中学校だけとなっている。さらに小中学校を義務教育学校にする動きもある。市域が広く、これ以上の学校の統廃合は考えにくい。小中一校ずつしかない地域で、一定の学校規模を維持するには縦の統合しかないのだ。

一方で、地域活性化の輪を全国に広げるイベントで「一流の田舎」を目指すと宣言し、移住の促進策に期待を寄せるまちでもある。散居村で知られる砺波平野、世界遺産の合掌造り集落、演劇祭、長い歴史を持つ伝統工芸の彫刻など、それぞれが特徴をもつ自治体が合併したまちの誇りとも言えるだろう。

実は、こうした事情が「チーム担任制」をはじめとする大胆な教育改革の背景にあるため、詳しく説明しておく必要があると思った。

南砺市の教育改革は、筆者が訪ねる前の2023年6月、すでに東洋経済education×ICTのサイトが2023年6月に詳しく紹介取材している。そこにも南砺市教育長、松本謙一のコメントが以下のように載っている。

「急速に過疎化が進んでいますが、これ以上の統合があると地域それぞれの文化が失われてしまいます。小規模校の利点も考慮し、各地域に学校を残す方針を決めました」

駅を降りると、まずこの松本を訪ねた。小中学校の教員を経て、金沢大学や富山大学で教鞭をとったが、学者らしくない豪快なタイプの教育長だ。強烈な富山弁で、“戦後74年間の『当たり前』を見直す”と教育改革を熱く語る。

松本も、チーム担任制を考えたときに、同じような改革をやっていると聞いた東京都千代田区立麹町中学校を視察に行ったひとりだった。

松本にはインタビューのあと、地元の福光中学校まで車で送ってもらった。

この中学校の隣には県立南砺福光高校があった。2022年春、南砺福野高校との統合で閉校になった。校舎はそのまま残り、活用方法は決まっていないという。市役所からもそう遠くない場所の高校が再編で閉校せざるを得ないところに、この地域の厳しさがある。 
                                             (文中敬称略)

(19) 辞めない新卒

全市でチーム担任制を導入している富山県南砺市の改革は、松本謙一が教育長に就任した2019年までさかのぼる。

説明役は、教育委員会教育総務課で副参事を務める山本佳和。2019年から市内二つの中学校で教務主任や学年主任、教頭を務め、2023年度から教育委員会に異動になった。まさに松本の掲げた改革を現場で引き受ける立場だったことになる。

松本は1年目に市内の学校を回って、学校の課題や良さを整理した。

課題としては、残業が当たり前になっている学校のブラック企業化、子どもの減少による複式学級の増加や部活動数の維持の難しさ、教師の若返りによる教育力の低下、親を育てることの必要性の増大があがった。

逆に良さは、保育園・幼稚園から中学校の一貫教育がすでに進んでいること、地域が学校に協力的なことに加え、校務支援システムやエアコンの完備、教室のオープンスペースの活用や複式学級の教育経験などである。

それらを組み合わせ、夏休みや冬休みを短縮する代わりに6限目をやめたり、繁忙期を除いて教員も有休をまとめ取りすることを勧めたりした。部活動改革では部活による他校入学を認める点だ。そのための公共交通機関の交通費補助も始めた。

さらにいま現在進行形なのが部活動の拠点校化である。南砺市のような広い市域でこれをやるのはかなり大胆な取り組みだと思う。

こうした多くの改革の中に、「1学級1担任制をやめたら」という提案があった。チーム担任制は、小中一貫教育、部活動改革とともに、改革の3本柱と位置付けた。まず教育委員会の職員から意見を聞き、校長会、PTA役員会、教頭会、教務主任会など、順を追って説明、共通理解に努めるとともに、手法の改善も検討した。保護者に知らせる文書が発出されたのは2020年3月だ。

同じ市内でも学校ごとに事情がかなり違うため、学校の規模が違い、児童生徒数、教職員数の違いでやり方も異なることを最初から前提にしていた。そもそも1学年で複数の学級があればひとつの学年間でチームが組めるが、単学級であれば複数の学年でチームを組んで授業をすることになる。

小学校の国語、算数、理科、社会については、教科のねらいが学年ごとに示されているため、学年ごとの指導とした。ただ、チーム担任制を生かし、得意な教科を複数の学級で指導することを認めた。保護者もこの考えに賛同した。

中学校では、まず学年の教員が交代で朝の会や帰りの会を実施することから始めた。

2020年3月に南砺市教育センターがチーム担任制についてまとめたポンチ絵でも、小学校では「主に生活科、音楽科、図工科、体育科、道徳科、外国語、学級活動、朝や帰りの会等において実施」、中学校では「道徳科、学級活動、朝や帰りの会、給食、生活ノートを活用した指導、教育相談等において実施」と記している。

その後の「成果と課題及び方策」をまとめた資料には、総合的な学習の時間で、「学級を解体し、追求したいテーマごとに分かれて学習」、体育科では「水泳では泳力ごとの指導の分担」といった、さまざまな取り組みが細かく紹介されている。また、評価のため「行動の変容をとらえる」必要のある道徳科では、複数の教員が担当することになるために「ノートにしっかり書かせる」ことを徹底するなど、方策も示している。

保護者には当然、子どもたちにとってのメリットが伝えられた。授業の質や学級環境が向上する、多様な個性をもつ児童生徒に対して複数の教員によるきめ細かな指導や支援が可能になる、教師の個性や良さが発揮される創造的な教育活動がこれまで以上に展開される、などである。

教員にとってのメリットについて、教育長の松本は「一番の成果は新規採用教員の退職者が実質ゼロだということ」と胸をはる。

松本が教育長になった2019年度から2023年度(11月1日まで)の新規採用者68人のうち、辞めたのは結婚が理由の2人と進路再考を理由にした1人だけで、消極的な理由での退職者はゼロだという。新規採用者がすぐに辞めてしまうと悩む教育委員会は全国には少なくないだけに、うらやましい数値だろう。

学年主任の負担増は避けられないものの、若手教員の負担が減った結果を示す数値と言えるはずだ。 
                                (文中敬称略)
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「学年担任制」を考える

(20) 時差出勤を実現

チーム担任制を導入した富山県南砺市の学校では、時差出勤が実現した。授業の組みようによって空き時間ができるのなら、その分、働き方を柔軟にするというのは必然的な流れだろう。若手が増えれば幼い子どもの送り迎えの時間が必要なのは全国共通であろう。

ただ、2021年1月の時点で市教委が教員にアンケートをした結果では、「時差出勤をとることができたか」という問いに明確に「はい」と答えたのは15%ほど。「どちらかと言えば」も含めた肯定的回答は多数派にならず、明確に「いいえ」と答えた教員が63%を占めた。

昨年度まで中学校の教頭を務めていた教育委員会教育総務課副参事の山本佳和によると、子どもを保育所に送るのに時差出勤の制度を活用する人がいる一方で、学校に出てきて授業準備の時間に充てたいという教員もいたという。このため、山本が勤務していた中学校では2022年度は希望制に変えたという。

市教委から最も近い福光中学校では、校長の藤井一哉と教頭の山﨑洋が待っていてくれた。福光中は各学年2クラスに特別支援学級が2クラスという規模の学校である。全校生徒が160 人ほど。30年ほど前には300人を超えた時期もあったが、現状のままだと10数年後には全学年単学級化すると予想されている。

校舎がオープンスペースで作られているため、教室はよりゆったり感がある。




この構造は授業を見学したり、チーム担任制で担当が変わっても情報を共有したり交換したりしやすいという。

「担任はだいだい20代。30を超えるのは学年主任がひとりいるくらい。若い先生ばかりなので、教えることがたくさんある」と校長の藤井。チーム担任制に必要な情報共有にオープンな校舎の構造は好都合なのだ。

「若いころはよく、先輩の授業を見に行きなさいと言われたものですが、それが仕組みになっているのは、若い先生が増えている中で大きい」とも。

気になる時差出勤だが9月段階の教員ごとの時間割を見せてもらった。ほぼすべての教員に9時15分からの出勤でよい遅番を示す「遅」の文字が目立つようにはめ込まれていた。 

福光中でも「いつでも取って構いませんよ」というスタンスだと、ほとんど利用されなかった。自分で計画的に遅番を設定する余裕がなかったり、好きな日を取ろうとすると時間割変更が伴うため遠慮してしまったりするからだという。

そこで2023年度は、時間割ができた段階で、それぞれの教員が1限目に授業のない日を「遅く出勤しても構いません」というスタンスで遅番出勤日とした。もちろん、本人の都合の良い日にその都度変更しても構わないことにしている。

その結果、9月実績で、ほぼ1人につき月1回は遅番出勤をしている。本来は月4回ほど利用できるが、ほとんど利用がなかった前年度に比べれば増えていると言える。

文部科学省の中央教育審議会質の高い教師の確保特別部会では、横浜市も時差出勤を積極的に取り入れていることが報告されていた。学校という世界も、この仕組みが定着していくのだろうか。

もうひとつ、時間割の表を眺めていて気付いたのは、特別支援学級も含めてチーム担任制を回していることだった。たまたま特別支援学級の生徒が全員3年生だったからだというが、この通常学級との交流という別の視点でも、チーム担任制には可能性があるのではないか。

この秋の話題は部活動の拠点校化だった。福光中学校を訪ねた時点ではまだ全市的な合意はない段階だったが、すでに野球部員は募集停止、サッカー部は部員3人でこの春スタートした。軟式野球の地域クラブが発足しており、福光中学校や同じ旧福光町にある吉江中学校の生徒で野球をやりたい生徒は、この地域クラブに参加している。

拠点となるのは運動部と文化部が二つずつと聞いた。こうした環境の中で、よりよい教育を求めた模索が続いているのだ。改めて、教育の世界はもっと地方に目を向けるべきだと痛感したのだった。 
(文中敬称略)

(21)学年チーム担任制のマニュアル

鹿児島市立城西(じょうせい)中学校でも、「学年チーム担任制」を取り入れていることを知った。九州新幹線の終着駅である鹿児島中央駅からタクシーでも10分とかからない。出張先の熊本から最も速い「みずほ」で43分。これは行くしかないと思った。

城西中学校は、旧制一中が前身の鹿児島県立鶴丸高校や私立鹿児島高校も近い文教地区にある。学校にたどり着くと、生徒が放課後の掃除の最中だった。生徒に案内してもらった校長室は、会議室も兼ねているようで普通の校長室の3倍ぐらいありそうだ。ここでも生徒が掃除をしていた。

迎えてくれた校長の木原正博はこの学校で2年目である。チーム担任制は前任の濱田耕一(現鹿児島高校副校長)が始めた。

話を聞き始めてしばらくして「学年チーム担任制の基本マニュアル」という文書を見せてもらった。このマニュアルは木原が今年3月に用意した。

「人事異動で毎年3分の1の教員が入れ替わります。それだけチーム担任制を知らない教員がいるわけだから、4月、5月は混乱します」。だからこそのマニュアルだった。現在1年生と3年生は6クラス、2年生は7クラス、それに特別支援学級が3クラス。生徒数は700人を超えている。

チームを組むのに、1学年6クラス、7クラスあると、全学年で1チームとして回すことは難しい。生徒からは以前、その要望もあったというが、教員の側が200人を超える生徒を最初から把握することは容易ではない。

このためチームは3クラスずつ、あるいは3クラスと4クラスで分けて2チームにした。道徳の授業は全学年で回すが、その他は各学年2チーム制ということになる。

マニュアルでは、数字が前半の学級をチームA、後半の学級をチームBと呼ぶ。年間を通して「学級の世話や連絡等の窓口となる」BT(基本学級担当教員、Basic Teacher)、ローテーションで「主として学級運営を行う」MT(主担当教員、Main Teacher)、 ローテーションで「BTの補佐として学級運営を行う」ST(サポート担当教員、Support Teacher)を決める。基本的に1週間程度で交代していくのはMTとSTで、BTは固定されている。

マニュアルには、学年チーム担任制の1日の流れも書いてあってわかりやすい。

たとえば朝の出欠確認は、MTが教室の出席状況を見て、朝読書の事前指導をしている間に、STが保護者からの欠席届の確認をする。MTが朝の会で連絡事項を伝え、提出物の回収をしている間に、STは欠席の連絡がない保護者に電話で確認をする。同じように、給食の指導や帰りの会もMTとSTが分担をする。

不登校の生徒には、原則としてBTが家庭訪問や電話連絡などの対応をする。生徒や保護者からの一般的な相談も、特に教員の指名がない場合はBTが対応するのが基本だ。

考えてみると、こうした業務を担任が1人でこなすこと自体が大変なことだ。おそらく役割分担をすれば、教員の細かい業務の見直しにもつながることだろう。

城西中学校では朝の15分間を学年での職員朝会にあてている。全体朝会をやめた時期もあった。いまは学年の職員朝会が週3日(土曜授業があれば週4日)で、水曜だけ全体朝会、木曜日は放課後に学年部会の時間を設けた。これだけ密に学年で情報交換をする必要があるのだ。

チーム担任制導入の1年目は、3年生だけで取り組んだ。いまも、実施しているのは2、3年生にとどめている。小学校から進学したばかりの1年生は学級担任制でスタートし、進級を見据えた3学期からチーム担任制を始める。

1週間ごとのローテーションで担任が変わるが、年度初めや学校行事に時間を割く期間、生徒指導などで継続した指導や支援が必要になったとき、3年次の進路事務の多忙な時期などは、固定することもあるという。

管理職は、最初から1学年2チームを想定して、学年ごとに若手とベテランの構成などを考えることになる。

木原は赴任した当時、「実は(学級担任制に)戻したくて戻したくてしょうがなかった」のだという。それがどうして続けることになったのだろうか。
(文中敬称略)

(22)「止めたかった。でも今はこれがいい」

鹿児島市立城西中学校に赴任した年、1学期の様子をみてきた校長の木原正博は、ほかの学校のように学級担任制に戻したいと思っていた。教員からの相談が絶えず、混乱しているのがわかったからだ。ところが2学期に入ると、不思議と学校は落ち着きを見せ始めた。チーム担任制がいいという教員も現れるようにもなった。

現在の3年生の学年主任である井原道子にも話を聞くことができた。教員経験30年ほどのベテランで、城西中は5年目になる。井原が赴任して2年目でチーム担任制がスタートしたことになる。

井原は「どんなにメリットがあると説明されても、『なんで担任制ではだめなのか』という声が収まらなかった。おおまかで自由でいいという緩いやり方になると、誰が責任を持つのかということになる」と説明する。

ただ、「責任を1人の先生に押し付けないので、働き方改革の点ではメリットはある」。そう理解しながらも、嫌々ながらのスタートだったと認める。井原自身が「悪いところばかりなので止めましょう」と前任校長の濱田耕一に直訴したこともあるのだ。

そんな教員たちを変えていった理由のひとつが、ここでも生徒の変化だった。チーム担任制の導入と同時にできた「学級運営委員会」で、生徒自身が主体的にクラスのことを考えるようになったのだという。

学級運営委員会とは生徒会活動の一環で、各クラスの総務、副総務と、学習部、文化部、図書部、保健部、給食部、整美部の各学級専門部長の8人で構成され、月2回放課後に話し合いをする。     

自分たちの手でよりよい学級をつくり上げる意識をもたせる狙いがあり、教員は「ファシリテーターの立場に徹し」「生徒の素直な思いや率直な意見を多く引き出す」役割をもつこととなる。

学級運営委員会では、学校行事に向けた団結を強めることもあれば、「(孤立しているかのように)いつも一人で教室にいる子に声をかけてみよう」といった話にもなる。以前ながら担任がそれを促していたところだが、「困っている仲間がいないか」といった話題が自然と出るようになったという。

改めて井原に、チーム担任制について確かめると、「楽です。いまは私もこれがいい。(チーム担任制を入れていない)1年生に移った人もチーム担任制のほうがいいと言っているし、他校に異動した人はもっとです」と評価する。

校長の木原は「何か問題が起きたときにもチームを作りやすい」という。

すぐ近くの高校に勤務する前任校長の濱田にも会ってみたかったが、代わりに木原から濱田の論文を見せてもらうことができた。

「チーム担任制による協働性の回復の試み~求められる教育の質への対応と教師が成長していく組織への転換~」と題した論文の最後に濱田はこう記している。


かつての職員室は、先輩からの問いかけに、精一杯考えて答える後輩との教育談義が満ちていた。個人主義によって失われつつある同僚性や協働する雰囲気、成長していく教師の姿を取り戻すことが、この取組の一番の成果となる。


職員室での会話が減り、教員の同僚性が失われていると言われて久しい。子どもたちの主体性を強めるだけでなく、教員の同僚性を取り戻すことも、チーム担任制の大きな意義かもしれない。
(文中敬称略)

(23)いったん“ホームベース”に

「学年担任制」や「チーム担任制」の取り組みは、一定程度、全国に広がっていることが確認できました。

自治体内のすべての学校でやっているところもあれば、限られた学校で孤軍奮闘しているところもありました。特に孤軍奮闘組には個性的な管理職がいることもわかりました。ただ孤軍奮闘組と名付けたとおり、教育委員会は今後、どうフォローしていくのかが気になっています。

連載中、中学校のベテランの先生から、「学年担任制」について否定的な匿名の投稿も届きました。自分の学校では「学年担任制」が働き方改革になっておらず、教員は遅くまで学校に残っているのに、管理職はそれを隠すようにしていているというような内容でした。

ただこの先生とやりとりをしてみると、「学年担任制」の全面的な否定ではなく、その良さもわかったうえでの発言だとわかりました。

「学年担任制のよさは多くの教員の目で生徒に関わることができることですが、ついつい教員同士の情報共有に時間をかけてしまいます」「大変なのは生徒理解の共有と指導方針の共有です」とこの先生は言います。そこに多忙さが生まれるということでしょう。

「若い頃、学級経営に四苦八苦しましたが、先輩に怒られたり、助けてもらったり、勇気をもって生徒と一人で向き合ったりして乗り越えました。その達成感や乗り越えて生まれた生徒とのつながりは、学級担任の醍醐味です」

こんなふうに学級担任制のことを語ったうえで、この先生はこうも言います。

「学年担任制によって多くの目で指導することは、生徒にとって大きなメリットになります。学校の組織的な動きが軌道に乗ってくれば、教師にもメリットがあります」

この話は図らずも、第21回と第22回で取り上げた鹿児島市立城西中学校の「チーム担任制」をめぐる経緯と重なります。

過渡期をどう乗り越えるのか。管理職は、教師一人ひとりの思いを受け止めながら改革を進める必要があると感じました。

 
 

<「共育の杜」を歩く>の第1部<「学年担任制」を考える>のシリーズは、いったんこれで終わります。この間、取材の出発点となった千葉県松戸市では、もう1校、本格的に「学年担任制」に取り組み始めました。この仕組みに興味をもつ研究者も現れています。

全国にはほかにもまだ取り組まれている学校の情報があります。また、この取り組みを広げるきっかけをつくった工藤勇一さんのことも詳しく取り上げていません。

ただ一度、時間を置いて改めて考えたいと思っています。“ホームベース”に戻ってひと休みする感覚ですが、引き続き<杜>は歩いていきますので、よろしくお願いいたします。


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