「教育職員の精神疾患による病休者過去最多」に対する談話

【更新日】 2022年12月27日(火) 学校の働き方改革と教師の学び方
「教育職員の精神疾患による病休者過去最多」に対する談話

2022年12月26日
教職員のメンタルヘルス対策プロジェクト
リーダー 小川 正人(東京大学名誉教授)
NPO法人「教育改革2020『共育の杜』」
理事長  藤川 伸治
 

12月26日、文部科学省は「令和3年度公立学校教職員の人事行政状況調査」を公表しました。

教育職員の精神疾患による病気休職者数は、5,897人(全教育職員数の0.64%)で、一昨年度から694人増加し、過去最多となりました。精神疾患による一か月以上の病気休暇取得者5047人を加えた1か月以上の長期療養者も10944人(全教育職員数の1.19%)と初めて1万人を超えました。厚生労働省によると精神疾患によると連続1か月以上休業した労働者の割合は0.4%(令和2年「労働安全衛生調査(実態調査)」)となっており、民間との比較において約0.24%高くなっています。

病休・1か月以上病休日取得者率(全教育職員数割合、以下、同じ)は、自治体間で大きな格差があります。都道府県においては、沖縄県(1.79%)・東京都(1.63%)・奈良県(1.54%)、政令市においては福岡市(1.89%)、京都市(1.89%)、大阪市(1.86%)などとなっており、これらの自治体は毎年、高い出現率となっています。一方で、兵庫県(0.55%)、群馬県(0.60%)、福井県(0.67%)など低率の自治体もありますが、これらの自治体も民間との比較では高くなっています。

20代、30代の若手教育職員の精神疾患による病気休職、一か月以上の病気休暇取得者率はそれぞれ1.87%(令和2年度1.43%)、1.36%(同1.22%)と他の年齢層と比較すると高率になっています。その背景には、団塊世代の大量退職と世代交代で業務・責任が中堅・若手に過重負荷となっていることなどが推測されます。病休者率の自治体間での格差の要因分析と併せ、別途詳細な検証と早急な対策が必要です。

教員が、健康に働き充実した生活を送ることは教員個人にとっても大切ですが、以下の観点から社会・経済的にも重要な意義があります。

①学校教育は、教職員と児童生徒との人格的な触れ合いを通じて行われるもの
教職員が心身共に健康で意欲的に職務に取組むことは、児童生徒にも教育活動にも良好な影響を及ぼし、社会の重要なインフラストラクチャーである学校の質的維持・向上に不可欠です。

②教職の魅力向上で優秀な人材確保の必要性
若い優秀な人材が教職を忌避する傾向を解消するには、教員の長時間労働、30代、20代を中心に増加傾向のあるメンタル不調等に歯止めをかけ、健康に働ける充実した教職生活を送れるような学校の安全衛生管理体制の整備と職場環境の改善・充実が喫緊の課題です。

③病気休職者の増加は、休職期間中の給与保障や代替教員等、財政的負担も伴う莫大な経済損失
精神疾患等による病気休職者1人の経済損失は、本人給与の約3倍という試算もあり、それに従えば公立学校教員の病気休職で年間700~800億円の経済損失が発生していることになります。

文部科学省は来年予算案で、教職員のメンタルヘルス対策の調査研究事業を計上しました。この点は評価できますが、単年度の予算措置であり、効果的なメンタルヘルス対策を1年間で確立することは不可能と言わざるを得ません。通常国会における政府予算案審議において危機的な状況にある教職員のメンタルヘルス対策の確立に向けた展望が見出されることを期待しております。

教職員のメンタルヘルスプロジェクト、NPO法人「共育の杜」は、民間における効果的なメンタルヘルス対策事例を活用しながら各教育委員会のメンタルヘルス対策、労働安全衛生管理体制の整備充実に向けた支援を引き続き、続けていきます。この問題に関わる市民のみなさまのご理解、ご支援をお願い申し上げます。                                            

以上