前回は、人間には、本人にも周囲にもまだ認識されていない「未発力」があることをお伝えしました。
人間の可能性がどこまであるのかは、誰にも分かりません。
しかし、この「分からない」ということを、私たちは不安や弱さとして捉えすぎているのではないでしょうか。
私はむしろ、逆だと考えています。
人間は、自分の可能性が分からないからこそ、未来を想像し、創造できる。
もし、自分が何者になるのかも、未来に何が起きるのかも、最初からすべて決まっていたとしたら、創造する必要はありません。
未知があるから、問いが生まれます。
問いがあるから、想像します。
想像するから、行動します。
そして、行動するからこそ、まだ存在していなかった未来が生まれるのです。
人類はこれまで、未知と向き合いながら文明を築いてきました。
火を使うこと。
大地を耕すこと。
海を越えること。
文字を生み出すこと。
病気の原因を探ること。
空を飛ぶこと。
宇宙へ出ること。
どれも、最初から答えが分かっていたわけではありません。
誰かが、まだ存在していない未来を想像しました。
そして、試しました。
失敗しました。
ふりかえりました。
もう一度試しました。
その積み重ねによって、人類は未知を少しずつ現実へ変えてきました。
つまり、文明とは、すでに分かっていることを繰り返した結果ではありません。
未知に向かって想像し、創造し続けた結果
なのです。
ここで、「想像」と「創造」を分けて考えてみましょう。
想像とは、まだ存在していないものを心の中に描くことです。
創造とは、その想像したものを、現実の中に生み出そうとすることです。
想像だけでは、未来は変わりません。
一方で、想像のない行動は、過去の延長を繰り返すだけになりやすい。
だから、人間が未知へ向かうためには、
想像することと、創造することの両方
が必要になります。
こんな未来をつくりたい。
こんな自分になりたい。
この問題を、別の方法で解決できないだろうか。
この人と一緒なら、今までになかったものを生み出せるのではないか。
そうやって未来を想像し、実際に一歩を踏み出す。
その行動によって、想像は創造へ変わっていきます。
未発力は、じっと考えているだけで発見できるものではありません。
未来を想像し、実際に動き始めたときに、初めて現れてくる力があります。
挑戦してみたことで、自分に思っていた以上の集中力があると気づく。
人を支える役割を任されたことで、相手の可能性を見抜く力が現れる。
失敗したことで、自分には立ち直り、やり直す力があると知る。
異なる価値観を持つ人と関わることで、それまで持てなかった観点が生まれる。
こうした力は、行動する前からすべて分かっていたわけではありません。
創造の過程に入ったからこそ、現れてきたのです。
つまり、
人間は、未発力を使って未来を創造するだけではありません。
未来を創造する過程そのものによって、未発力を発現させていくのです。
しかし、私たちは未知に向かう前に、正解を求めすぎることがあります。
失敗しない方法を知ってから始めたい。
成功が保証されてから挑戦したい。
周囲に認められてから、自分の考えを表現したい。
けれども、未知の世界には、最初から正解はありません。
まだ誰も到達していない未来に、完成した地図はないのです。
だから必要なのは、正解を持つことではありません。
今の現在地を知ること。
創りたい未来を想像すること。
そこへ向かう、はじめの一歩を決めること。
実際にやってみること。
起きたことをふりかえること。
そして、現在地と次の一歩を更新することです。
人間は、最初から正解を持っているから進めるのではありません。
進みながら、答えを創っていく存在
なのです。
AIが急速に進化する中で、私たちはAIを「答えを出してくれる存在」として使い始めています。
もちろん、情報を調べたり、考えを整理したり、選択肢を増やしたりするために、AIは大きな力を発揮します。
しかし、AIから答えを受け取ることだけに慣れてしまえば、人間は自ら問いを立て、未知を想像する力を弱めてしまうかもしれません。
AIとのより良い関係は、答えを任せることではありません。
自分一人では持てなかった観点を受け取る。
漠然とした思いを言葉にする。
自分の前提や思い込みを問い直す。
まだ見えていない選択肢を探る。
AIとの対話を通して、人間自身の想像力を深めていく。
そのときAIは、人間の代わりに未来を決める存在ではなく、
人間と共に未知を探索する存在
になります。
人間の未発力がどこまであるのか分からないように、AIがこれからどこまで進化するのかも、まだ分かりません。
AIには、現在すでに明らかになっている機能があります。
しかし、人間との関係の中で、これからどのような価値を生み出すのか。
どのような発見を支援するのか。
どのような社会や文明の創造に関わるのか。
その全体像は未知です。
だからこそ、AIの可能性を過度に恐れるだけでも、無条件に信じるだけでも不十分です。
人間の未発力とAIの未発力を、どの方向へ結びつけるのか。
そこに、人間の想像力と創造力が必要になります。
AIの力を、今の社会をさらに速く、さらに効率的に動かすためだけに使うこともできます。
人間を管理し、分類し、競争を激しくするために使うこともできます。
一方で、人間が自分の観点を超え、他者や自然とのつながりを捉え直し、これまでにない解決策を生み出すために使うこともできます。
人間の進化と発展に資する方向へ。
地球の生命循環を損なわない方向へ。
宇宙を含む自然摂理と調和する方向へ。
人間とAIの共創関係を育てられるかどうか。
その答えは、まだ存在していません。
だからこそ、私たち自身が創造していく必要があります。
これからの教育に必要なのは、すでにある正解を早く覚えられる人を育てることだけではありません。
答えのない問いに向き合えること。
まだ存在しない未来を想像できること。
自分とは異なる人と対話できること。
実際に試し、失敗から学べること。
ふりかえりながら、現在地を更新できること。
そして、自分の未発力を発現させながら、他者やAIと共に未来を創造できること。
それが、AI時代に必要な人間教育です。
人間は、未来が分かっているから進めるのではありません。
未知だからこそ想像し、想像するからこそ創造できる。
その力こそ、人間がこれからの時代に育て続けなければならない力なのです。
第4話
「自己内対話が、未来を創る」を読む
同じ出来事を経験しても、前へ進む人と、立ち止まる人がいるのはなぜでしょうか。
第4話では、人間の想像と創造を内側から方向づける「自己内対話」について考えていきます。