前回、私は「AI時代だからこそ、人間とは何かを問い直す必要がある」とお伝えしました。
AIは未知のテクノロジーです。
しかし、本当に未知なのはAIだけなのでしょうか。
私はそうは思いません。
実は私たちは、AI以上に人間という存在を理解できていないのです。
学校ではテストで能力を測ります。
会社では評価制度があります。
スポーツでは記録があります。
社会は、人を「測ること」で成り立っています。
この「測る」という人間観は、探究教育を考えるうえでも重要な問題を含んでいます。
探究は、現在すでに能力を発揮している子どもだけが取り組む学びではありません。
問いを持ち、他者と関わり、実際に試す中で、まだ見えていなかった力が発現していく学び
だからです。
そして、その測定結果を見て、
そんな判断を当たり前のように繰り返しています。
しかし、本当に人間は測れるのでしょうか。
ここで、一つ考えてみてください。
テストで測れるものは何でしょうか。
学力です。
スポーツテストで測れるものは何でしょうか。
現在の運動能力です。
会社の評価制度で測れるものは何でしょうか。
今、この瞬間に発揮されている成果です。
つまり、私たちが測っているのは、
現在発現している能力
だけなのです。
未来は測れていません。
ましてや、その人がまだ発現していない可能性など、誰にも測ることはできません。
私は30年間、人の成長を研究し続けてきました。
スポーツ。
教育。
経営。
地域づくり。
数え切れないほど多くの人と関わる中で、一つの確信があります。
人間には、まだ現れていない力がある。
私は、この力を
未発力
と呼んでいます。
未発力とは、
「まだ使えていない能力」
ではありません。
まだ存在そのものが現れていない力です。
本人にも分からない。
親にも分からない。
先生にも分からない。
専門家にも分からない。
だから「未発」なのです。
もし、人間の可能性が最初から測れるのであれば、
しかし現実は違います。
昨日までできなかった人が、ある日突然できるようになる。
人生の途中で使命に出会う人がいる。
誰も期待していなかった人が、社会を変える存在になる。
私たちは、こうした出来事を何度も目にします。
なぜでしょうか。
それは、
人間が未発力を持っているからです。
だから私は、
人間の可能性は、誰にも測れない。
そう考えています。
ここで、多くの人が誤解します。
未発力とは、自分の中に眠っている才能を探し出すことではありません。
「自分探し」という言葉がありますが、私は少し違うと考えています。
人間は、自分の中に完成した才能を持っていて、それを発見するのではありません。
未来を想像する。
挑戦する。
失敗する。
人と出会う。
ふりかえる。
また挑戦する。
そのプロセスの中で、それまで誰も知らなかった自分自身が現れてきます。
これは、探究の過程でも同じです。
最初から優れた問いを持っている必要はありません。
調べる。人に会う。実際に試す。予想とは異なる結果に出会う。そして、ふりかえる。
その過程で問いが変わり、本人の見方が変わり、それまで表れていなかった力が現れます。
探究とは、すでにある才能を確認するための学びではありません。
子ども自身もまだ知らない未発力が、実践の中で発現していく学びなのです。
つまり、未発力とは、
未来を創造するプロセスの中で発現してくる力
なのです。
ここで、AIについて考えてみましょう。
AIもまた、未知の存在です。
私たちは、AIが今できることは知っています。
しかし、
その答えは、まだ誰にも分かりません。
つまり、
人間にも未知がある。
AIにも未知がある。
私たちは今、
未知なる未発力を持つ人間と、未知なる未発力を持つAIが出会う時代
を生きています。
AI時代になると、多くの知識はAIが支えてくれるようになります。
では、人間教育は必要なくなるのでしょうか。
私は逆だと思います。
これからの教育は、
知識を増やすことだけではありません。
その人の未発力が発現する環境をつくること。
そのために重要になるのが、探究です。
ただし、テーマを与え、情報を調べ、きれいな成果物を完成させるだけでは十分ではありません。
子ども自身が何に心を動かされたのか。どのような問いを持ったのか。実践によって何が分かり、問いや現在地がどう変わったのか。
その変化を支えることが、AI時代の探究教育には求められます。
AIは情報収集や整理を支援できます。
しかし、何を探究するのか、何のために探究するのかを決め、その経験から自分自身を更新していく主体は人間です。
それが教育の本質になります。
人を評価する教育から、
人の可能性を信じる教育へ。
答えを教える教育から、
未来を共に創造する教育へ。
私は、その転換点が今だと考えています。
AIは、人間にはない力を持っています。
しかし、人間にもAIにはない力があります。
それは、
まだ誰にも見えていない未来を想像し、創造できること。
そして、その創造の中で、自分自身の未発力を発現させていけることです。
だから私は、
AI時代だからこそ、人間をもっと信じたいと思っています。
現在の能力ではなく、
まだ誰にも見えていない可能性を。
過去の実績ではなく、
未来に向かって発現していく力を。
それが、人間という存在の本質なのではないでしょうか。
第3話
「人間は、未知だから創造できる」を読む
人類は、なぜ文明を築くことができたのでしょうか。
そして、AIという未知と出会った今、私たちは何を創造しようとしているのでしょうか。
第3話では、「未知」と「創造」の関係から、人間という存在をさらに深く考えていきます。
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