AI時代の人間教育 10回シリーズ|第5話

発現を決めるのは、構造である
構造が変われば、未来が変わる

前回は、私たちが現実をどのように受け取り、自分の内側で何を語るかという「自己内対話」が、未来の選択を方向づけていることをお伝えしました。

では、その自己内対話は、どこから生まれるのでしょうか。

なぜ、同じ出来事に直面しても、挑戦へ向かう人と、可能性を閉じてしまう人がいるのでしょうか。

なぜ、努力しているのに力が発現しない人がいる一方で、環境や関わり方が変わっただけで、急に生き生きと力を発揮し始める人がいるのでしょうか。

その違いを読み解く鍵が、

構造

です。

私は、人間の成長を考えるうえで、

構造が機能を決める

という原理を大切にしています。

人間の力が発現するかどうかは、本人の才能や努力だけでは決まりません。

その人が、どのような身体、自己内対話、関係性、環境、場の中にいるか。

その構造によって、現れる機能が変わるのです。
 

努力しても変わらないとき、見るべきもの

人が望む結果を出せないとき、私たちは本人の努力不足を疑いがちです。

もっと頑張るべきだ。

意識を高く持つべきだ。

やる気を出すべきだ。

根性が足りない。

しかし、本当に努力の量だけが問題なのでしょうか。

たとえば、扉が閉まっているのに、力を込めて前へ進もうとしている人がいたとします。

どれだけ力を加えても、扉が開かなければ前には進めません。

このとき必要なのは、さらに強く押すことではなく、

扉がどのような構造になっているのかを見ることです。

押す扉なのか。

引く扉なのか。

鍵が掛かっているのか。

そもそも別の入口があるのか。

人間の成長も同じです。

努力しているのに変化が起きないときは、努力が足りないのではなく、

力が発現しにくい構造の中で、努力を続けている可能性

があります。
 

身体の構造が変わると、機能が変わる

構造と機能の関係は、身体を見ると分かりやすくなります。

身体が過度に緊張し、呼吸が浅くなり、重心が不安定になっている状態で、本来の力を発揮することは簡単ではありません。

「力を抜いてください」

と言われても、本人は力を抜いているつもりかもしれません。

それでも緊張が取れないのは、意識や努力だけの問題ではありません。

身体そのものが、力を抜きにくい構造になっているからです。

骨格の位置が整う。

重力を自然に受け取れるようになる。

呼吸が深くなる。

必要のない緊張がほどける。

すると、無理に頑張らなくても、身体が自然に機能し始めます。

出せなかった力が出る。

見えなかったものが見える。

感じ取れなかったものを感じられる。

これは新しい能力を外から付け加えたのではありません。

構造が整ったことで、もともと未知だった未発力が、機能として現れ始めたのです。

自己内対話にも構造がある

自己内対話も、本人の性格だけから生まれているわけではありません。

家族の中で、どのような言葉を受け取ってきたか。

失敗したとき、どのように扱われたか。

自分の意見を表現したとき、受け止めてもらえたか。

周囲の期待に応えることで、認められてきたか。

学校や職場で、比較や評価をどのように経験してきたか。

こうした関係性の積み重ねが、自分の内側に対話の型をつくります。

「失敗してはいけない」

「期待に応えなければならない」

「人に迷惑を掛けてはいけない」

「自分の考えを言うと嫌われる」

「自分には価値がない」

こうした自己内対話が繰り返されていると、新しい可能性に向かう前に、自分で選択肢を閉じてしまいます。

本人の意志が弱いのではありません。

そう考え、そう行動しやすい構造が、内側にできているのです。
 

構造を見るとは、人を決めつけないこと

子どもが行動できないとき、

「やる気がない」

と判断することがあります。

部下が意見を言わないとき、

「主体性がない」

と評価することがあります。

挑戦を避ける人を見て、

「臆病だ」

と捉えることもあります。

しかし、表面に現れている行動だけを見ても、その人の全体は分かりません。

意見を言っても否定される場にいれば、人は黙るようになります。

失敗を責められる場にいれば、人は安全な選択をするようになります。

何をしても評価されないと感じていれば、挑戦する意味を失います。

人の行動には、それを生み出している構造があります。

だから教育者やリーダーに必要なのは、目に見える行動をすぐに評価することではありません。

この行動は、どのような構造から生まれているのだろう。

と見立てることです。

構造を見ることができれば、人を責める前に、何を変えればよいのかを考えられるようになります。
 

人を変えるのではなく、構造を変える

教育や組織の中では、しばしば「人を変えよう」とします。

もっと積極的になってほしい。

主体的に動いてほしい。

自信を持ってほしい。

協力し合ってほしい。

しかし、本人に変化を求めるだけでは、なかなか変わりません。

なぜなら、その人を取り巻く構造が変わっていないからです。

失敗すると責められる場で、

「挑戦してください」

と言っても、人は動けません。

意見を言うと否定される場で、

「主体性を持ってください」

と言っても、言葉だけでは変わりません。

互いを信用できない場で、

「協力しましょう」

と呼び掛けても、協力は生まれにくいでしょう。

変えるべきなのは、人だけではありません。

人が力を発現しやすい関係性、問い、役割、環境、場の構造をつくることです。

構造が変われば、人に求めなくても、機能が自然に変わり始めます。
 

AIも、構造によって機能が変わる

AIについても、同じ原理が当てはまります。

AIには多くの機能があります。

しかし、その機能が何を生み出すかは、AIの性能だけでは決まりません。

どのような目的で使うのか。

どのような問いを与えるのか。

誰が、どのような価値観を持って使うのか。

どのような組織や社会の中に導入されるのか。

どのような情報を基に判断するのか。

その構造によって、AIの機能は変わります。

競争と効率だけを目的とする構造の中で使えば、AIは人間を比較し、管理し、仕事を高速化する方向に機能するでしょう。

人間の未発力を発現させることを目的とする構造の中で使えば、AIは問いを深め、観点を広げ、創造を支援する方向に機能できます。

分断を前提とする構造の中では、AIは分断を増幅するかもしれません。

信頼と共創を前提とする構造の中では、AIは人と人の知恵をつなぐ可能性があります。

AIが未来を決めるのではありません。

AIがどのように機能する構造を、人間がつくるかが未来を決めるのです。
 

人間とAIの共創関係も、構造によって決まる

人間の未発力と、AIの未知なる未発力が出会ったとき、何が生まれるかは決まっていません。

人間の依存を強める関係になることもあります。

判断をAIへ預け、人間が考えることをやめる関係になるかもしれません。

既存の競争や支配を、さらに強化する関係になる可能性もあります。

一方で、人間が自分だけでは持てなかった観点に出会い、新たな問いを立て、自らの未発力を発現させる関係にもできます。

人間とAIが互いの未知を探索し、まだ存在しない未来を共に創造する関係にもできます。

その分岐を決めるのは、

どのような共創構造をつくるのか

です。
 

自然摂理と調和する構造をつくれるか

新たな文明が必要であることは、多くの人が感じ始めています。

しかし、次の文明の完成図は、まだ誰にも分かりません。

だからこそ、私たちは完成した答えを先に持つのではなく、方向性を確かめながら構造を更新し続ける必要があります。

その構造は、人間の目先の利益だけを目的とするものではありません。

人間の進化と発展に資するか。

人間の未発力を閉じるのではなく、発現させるか。

他者や社会との関係性を豊かにするか。

地球の生命循環を損なわないか。

宇宙を含む自然摂理と調和する方向へ向かっているか。

こうした問いを持ちながら、人間とAIの関係構造を創造していくことが必要です。
 

教育とは、発現する構造をつくる営みである

教育とは、知識を与えることだけではありません。

正しい行動を教え込むことだけでもありません。

人間の中にある未知なる未発力が、発現力へ転換される構造をつくることです。

安心して挑戦できること。

失敗から学べること。

自分の考えを表現できること。

異なる観点を持つ人と対話できること。

自分の現在地を捉え直せること。

未来を想像し、はじめの一歩を選べること。

人と人が互いの可能性を信じられること。

そうした構造の中で、人間は自ら育ち始めます。

教育者が人の可能性を直接つくるのではありません。

人間が本来持つ未知なる未発力が、自然に発現しやすい構造を整えるのです。
 

未来を変えたいなら、構造を見る

結果を変えたい。

行動を変えたい。

人を変えたい。

社会を変えたい。

そう願うとき、私たちは目に見える機能や結果だけを変えようとします。

しかし、その機能を生み出している構造が同じであれば、やがて元の状態へ戻ります。

未来を変えたいなら、構造を見る。

身体の構造。

自己内対話の構造。

関係性の構造。

学びの構造。

組織の構造。

AIとの関係構造。

構造が変われば、機能が変わります。

機能が変われば、未発力が発現し始めます。

そして、人間が創造する未来も変わっていくのです。

未来は、表面の行動を変えることからではなく、その行動を生み出している構造を変えることから始まります。
 

次回

第6話
「教育は、可能性を測るのではなく信じる」を読む

教育の中では、評価や測定が欠かせません。

しかし、現在見えている能力を測ることと、その人の未来の可能性を決めることは同じではありません。

第6話では、未発力という人間観に立ったとき、教育に必要な評価と信頼の関係を考えていきます。
 

著者プロフィール


佐々木浩一(ささき こういち)


AI時代の人間教育家
RCFメソッド®️創始者
NPO法人共育の杜 発起人・理事
学校リーダー育成「みらい塾」主宰
順天堂大学大学院修士課程修了。

競泳・ボクシング選手として競技に打ち込み、その後、人間の成長・能力発揮・リーダーシップ開発を探究。

現在は、RCFメソッド®️を通じて、自己理解・関係性・身体性・社会実装を統合した人間教育を展開している。

NPO法人共育の杜では、発起人・理事として、教育現場における人づくり・関係性づくり・リーダー育成に取り組む。学校リーダー育成「みらい塾」では主宰・講師を務め、管理職・教職員が自らのあり方を見つめ、学校現場において人が育つ場をつくるための学びを届けている。

新刊『アスリートマインド』では、大谷翔平、井上尚弥、イチローをはじめとする一流アスリートの思考構造を読み解き、子どもから大人までが学べる「結果を創る心の使い方」を解説。AI時代に必要なのは、知識や技術だけではなく、自分を整え、問いを持ち、困難を越えていく人間としての力である。スポーツの世界に凝縮された成長の原理を、教育・家庭・人生に活かす一冊。

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