学校をよりよくしたい。
そのために、新しい仕組みを入れる。若手を育てる。職員室の関係をよくする。学校の特色をつくる。
学校リーダーには、日々さまざまな課題が突きつけられます。
しかし、目の前の課題に一つひとつ対応しているうちに、いつの間にか自分自身が疲弊していたり、「人を育てよう」と思って任せたことが丸投げになっていたり、自分が始めた改革を「何としても残さなければ」と苦しくなってしまったりすることもあります。
2026年9月に行われた、みらい塾の「ごきげん革命|現場ディスカッション」では、全国の学校リーダーがそれぞれの現場で抱えている課題を持ち寄り、住田昌治塾長とともに約3時間にわたって対話しました。
今回の対話から浮かび上がった大きなテーマは3つです。
「不機嫌な人を変えようとしない」
「任せる前に、50%で伴走する」
「取り組みではなく、学校文化を残す」
一見すると別々のテーマに見えます。
しかし、その根底には共通して、学校リーダーは人を直接変える存在ではなく、人が育ち、力を発揮できる状態や関係性、文化をつくる存在ではないかという問いがありました。
みらい塾では、学校改革に必要な力を一つの方法だけで学ぶのではありません。
「探究する力」
「現場を対話から見立てる力」
「リーダー自身を変革する力」
を、それぞれ異なる角度から育てています。
専門書やテキストを読み、内容を要約し、そこから自ら問題を提起し、自分の学校現場と照らし合わせながら考察するトレーニングです。
目的:学校リーダー自身の探究力を鍛えること。
期待する効果:問いを立てる力、概念化する力、批判的に考える力、自分の考えを根拠とともに表現する力、他者との対話から考えを深める力を育てます。
住田昌治塾長を中心に、参加者が実際に学校で直面している課題を持ち寄り、本音で対話する場です。
目的:目の前の出来事を、個人の問題だけではなく、リーダーシップ、マネジメント、ファシリテーション、関係性、職員室文化、学校組織という視点から捉え直すこと。
期待する効果:全国の学校リーダーの実践や視点に触れながら、自校の現在地を見立て、次に何を実践するかを考える力を養います。若手育成、チーム担任制、学校改革など、現在進行形の課題も持ち込まれます。
佐々木浩一がRCFメソッド®︎を学校教育の現場へ翻訳し、学校リーダー自身と学校組織の変革について学ぶ場です。
目的:人を動かす方法を学ぶ前に、まずリーダー自身の自己理解、自己内対話、信頼、関係性、場の構造を見つめること。
期待する効果:自分起点で行動する力、人をより深く理解する力、人の力が発揮される関係性をつくる力、学校に変化が生まれる場を育てるリーダーシップを磨きます。
今回取り上げるのは、この3つのうち「ごきげん革命|現場ディスカッション」です。
今回のディスカッションは、住田先生が「ごきげん」とは何かを改めて語るところから始まりました。
住田先生が表現する「ごきげん」は、単にニコニコしていることでも、いつも明るく振る舞うことでもありません。
「揺らがず、囚われず、流れるが如く」
自分が何を大切にしているのかを持ちながら、何か一つの考えに固執せず、その場の変化にも柔軟に対応できる。
そんな心の状態を「ごきげん」と捉えています。
この状態は、学校リーダーにとって特に重要です。
自分の心が安定していれば、人の話を聴くことができます。
異なる意見を受け取ることができます。
「本当にそうなのだろうか」と批判的に考える余裕も生まれます。
反対に、自分自身が何かに囚われていると、自分に都合のいい話しか聞こえなくなったり、ちょっとした言葉に揺さぶられたりします。
ところが、学校現場には「不機嫌」になる理由がたくさんあります。
人が足りない。
仕事が多い。
思うように動いてくれない人がいる。
保護者対応がある。
新しい課題が次々に降ってくる。
何もしなければ、不機嫌になる理由はいくらでも見つかります。
そして、不機嫌は周囲にも伝わります。
職員室で誰かが不満や愚痴ばかりを口にしていれば、その空気は少しずつ広がっていきます。
では、そういう人をリーダーが「ごきげん」に変えればいいのでしょうか。
住田先生は、ここをはっきりと言いました。
「不機嫌な人をごきげんにするのは無理です」
本人自身が気づかない限り、他人がその人の心の状態を直接変えることはできません。
だから、相手を何とかしようとする前に、もっと大切なことがある。
「自分のごきげんを手放さないこと」
相手の不機嫌に巻き込まれない。
必要以上に相手を変えようとしない。
必要な仕事上の関係は保ちながら、自分自身まで同じ状態に落ちていかない。
これは、問題から逃げるという話ではありません。
まずリーダー自身が、自分の状態に責任を持つということです。
学校を変えようとすると、つい「あの先生をどう変えるか」「職員の意識をどう変えるか」と外側に目が向きます。
しかし、組織の空気に大きな影響を与える学校リーダー自身が不安定な状態であれば、周囲に安心して対話できる場をつくることは難しくなります。
リーダーシップの出発点は、人を変えることではなく、自分自身がどう在るか。
「ごきげん革命」という名前には、そんな意味が込められています。
続いて、ある参加者から若手育成についての悩みが出されました。
その学校では、これまで経験者が担っていた研究部の主任を若手に任せ、経験のあるメンバーは伴走者、サポーター、アドバイザーとして関わる体制へと変えたそうです。
しかし、実際にやってみると難しい。
どこまで関わればよいのか。
関わりすぎれば、若手本人の力を奪ってしまう。
ところが離れすぎれば、困っている時に支えられない。
「伴走しているつもりでも、実は自分が安心したいだけなのではないか」
そんな自分自身への問いも語られました。
この相談を受けて住田先生が紹介したのが、「100%・50%・6%モデル」です。
人に仕事を任せるとき、最初は教えることが必要です。
方向性を示す。
手本を見せる。
スケジュールを伝える。
必要なら自分が前に立って仕切る。
これが「100%」の段階です。
ところが、そこで一通り教えた後、
「では、あとはやってみて」
と、いきなり手放してしまうケースが少なくありません。
100%から、一気に6%へ移ってしまう。
住田先生は、ここで抜け落ちやすいのが「50%」の段階だと説明しました。
50%では、半分は本人に任せながら、リーダーは問いを投げます。
「あなたはどうしたい?」
「それをやったら、どうなると思う?」
「ほかにどんな方法がある?」
「今の課題は何だろう?」
答えを与えるのではなく、本人が自分で考え、自分で答えをつくれるように支える。
これが伴走です。
住田先生は、自転車に乗れるようになる過程に例えました。
最初は補助輪をつける。
次に補助輪を外す。
しかし、外した瞬間に「さあ、一人で走って」とはしません。
後ろを持って走りながら、少しずつ手を離す。
転びそうなら支える。
本人が自分でバランスを取れるようになったところで、本当に手を離していく。
この「後ろを持って走る時間」が、50%です。
そして、本人やチームが自ら走れるようになれば、リーダーの関与は6%程度まで下げていく。
ただし、それは「放っておく」という意味ではありません。
いつでも見ている。
必要な時には助ける。
最終的な責任を持つ立場であれば、その責任は手放さない。
人は段階的に育ちます。
だから、マネジメントも相手の成長段階に合わせて変わる必要があります。
「教えるか、任せるか」という二択ではありません。
教える。問いながら伴走する。そして任せる。
この真ん中を丁寧につくることが、若手育成にも、ミドルリーダー育成にも、そして子どもの主体性を育てるファシリテーションにもつながっていきます。
ディスカッションの後半では、ある校長から、学校改革を続ける中で長く抱えてきた問いが語られました。
「自分が今やっている取り組みは、自分がいなくなった後も残るのだろうか」
校長には異動があります。
どれだけ思いを込めて新しい取り組みを始めても、自分が異動した後、次の校長が同じことを続けるとは限りません。
では、自分は学校に何を残したいのか。
その参加者は考え続ける中で、一つの答えにたどり着いたと語りました。
自分が今やっているプロジェクトそのものが残らなくてもいい。
「人とつながって学ぶことが当たり前になっている文化が残ればいい」
そう思えた時、少し肩の荷が下りたそうです。
この話を聞いた住田先生は、自身の校長時代の経験を重ねました。
自分が「これをやろう」と提案して始めた取り組みは、異動後にほとんど残らなかった。
一方で、残ったものがありました。
教職員自身が話し合い、自分たちで「これをやろう」と決めたものです。
校長には権限があります。
だから、校長が「やろう」と言えば、反対意見があっても学校は動いてしまうことがあります。
しかし、それは校長がいる間だけ動く仕組みになってしまうかもしれません。
だから問うべきなのは、
「どんな取り組みを残したいか」
だけではなく、
「私たちは、どんな学校文化を残したいのか」
ではないか。
住田先生は、学校づくりを「風土→文化→特色」という順序で捉えました。
まずあるのは「風土」です。
学校に漂う空気。
安心して話せるのか。
人の話を聴くのか。
失敗を話せるのか。
子どもと一緒に考えるのか。
地域や外部の人とつながることを歓迎するのか。
そうした日常の空気の上に、学校文化が育ちます。
そして、その文化の上に初めて、その学校ならではの特色が生まれる。
ところが学校改革では、ときに「特色づくり」から先に始めてしまいます。
新しいプロジェクトを始める。
地域連携を打ち出す。
探究を掲げる。
特定の教育活動を学校の看板にする。
もちろん、それ自体が悪いわけではありません。
しかし、その下に風土と文化がなければ、担当者が替わったり、指定が終わったり、校長が異動したりした瞬間に消えてしまうことがあります。
逆に、
「この学校では人の話を大切に聴く」
「子どもと一緒に考える」
「教職員同士で対話して決める」
「外部の人とつながって学ぶ」
といったことが文化になっていれば、具体的な取り組みの形が変わっても、その学校らしさは残っていきます。
学校改革の目的は、校長自身の作品を学校に残すことではありません。
校長がいなくなった後も、そこにいる人たちが自分たちで考え、対話し、次の学校をつくっていける状態を育てること。
それこそが、リーダーが学校に残すことのできる最も大きなものなのかもしれません。
今回の3つのテーマは、別々の学校課題ではありません。
一つの流れとして見ることができます。
まず、自分のごきげんを手放さない。
人を変えることにエネルギーを使い切るのではなく、リーダー自身が安定し、人の話を聴き、考えられる状態を保つ。
次に、人が育つ過程に伴走する。
全部自分でやるのでも、いきなり丸投げするのでもなく、問いを通して本人が自分の答えをつくれる50%の時間を大切にする。
そして、自分がいなくても続く文化を育てる。
取り組みの形に執着するのではなく、教職員や子どもたちが自分たちで考え、対話し、学校をつくり続けられる風土と文化を残していく。
リーダーシップとは、人を思い通りに動かす力ではありません。
マネジメントとは、仕事を割り振って管理することだけでもありません。
ファシリテーションとは、会議を上手に進める技術だけでもありません。
それらはすべて、
「人が自分の力を発揮し、自ら動き、共に学校をつくっていける状態をどう育てるか」
という問いにつながっています。
みらい塾の「ごきげん革命|現場ディスカッション」では、完成された成功事例だけを学ぶのではありません。
全国の学校リーダーが、今まさに困っていること、迷っていること、うまくいかなかったことを持ち寄ります。
そして、誰かの悩みをみんなで考える中で、自分の学校を見る視点も変わっていく。
学校は現場から変わる。
その変化は、大きな制度改革だけから始まるのではなく、一人のリーダーが自分自身の状態を見つめ、一人の人の育ちに丁寧に伴走し、自分がいなくても残る文化を考えるところから始まるのかもしれません。
みらい塾では、全国の学校リーダーと共に、探究し、対話し、自分自身を見つめ、学校現場で実践し、また振り返る学びを続けています。
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学校法人湘南学園 学園長
横浜市の小学校校長を歴任し、ユネスコスクール、ESD、学校組織マネジメント、サーバントリーダーシップ、働き方改革などの分野で実践を重ねてきた学校リーダーです。
管理ではなく、任せるマネジメント。
対話的で能動的な学び。
子どもも教職員も元気になる学校づくり。
みらい塾では、校長自身の状態が学校全体に与える影響、子ども・教職員・保護者・地域が幸せになる学校文化づくりを伝えます。