教職員の意欲を高めるために、学校リーダーには何ができるのでしょうか。
新しい仕事を任せても、期待したような反応が得られない。学校改革の必要性を説明しても、教職員によって取り組みへの温度差がある。管理職として努力しているつもりでも、なかなか組織全体の主体性につながらない。
こうした状況に直面したとき、仕事の割り振り方や指示の出し方を見直すことは必要です。しかし、それ以前に考えたいことがあります。
「教職員一人ひとりが、仕事に何を求めているのかを理解できているだろうか」
2026年10月25日に行われた、みらい塾「探究力養成トレーニング」では、行動科学に関する教材を読み、人間の欲求や動機が行動にどのような影響を与えるのかを考えました。
参加者が取り組んだのは、単なる知識の理解ではありません。テキストの内容を要約し、そこから問いを立て、自分自身の学校で起きている出来事と結びつけて考察することです。
今回の対話では、教職員の働きがい、子どもの主体性、職員室の人間関係、チーム担任制など、多様な学校現場の課題が取り上げられました。
その中から見えてきたのは、人を動かそうとする前に、その人を理解することの大切さでした。
みらい塾では、学校改革に必要な力を一つの方法だけで学ぶのではありません。「探究する力」「現場を対話から見立てる力」「リーダー自身を変革する力」を、それぞれ異なる角度から育てています。
専門書やテキストを読み、内容を要約し、そこから自ら問題を提起し、自分の学校現場と照らし合わせながら考察するトレーニングです。
目的:学校リーダー自身の探究力を鍛えること。
期待する効果:問いを立てる力、概念化する力、批判的に考える力、自分の考えを根拠とともに表現する力、他者との対話から考えを深める力を育てます。
住田昌治塾長を中心に、参加者が実際に学校で直面している課題を持ち寄り、本音で対話する場です。
目的:目の前の出来事を、個人の問題だけではなく、リーダーシップ、マネジメント、ファシリテーション、関係性、職員室文化、学校組織という視点から捉え直すこと。
期待する効果:全国の学校リーダーの実践や視点に触れながら、自校の現在地を見立て、次に何を実践するかを考える力を養います。
佐々木浩一がRCFメソッド®を学校教育の現場へ翻訳し、学校リーダー自身と学校組織の変革について学ぶ場です。
目的:人を動かす方法を学ぶ前に、まずリーダー自身の自己理解、自己内対話、信頼、関係性、場の構造を見つめること。
期待する効果:自分起点で行動する力、人をより深く理解する力、人の力が発揮される関係性をつくる力、学校に変化が生まれる場を育てるリーダーシップを磨きます。
今回取り上げるのは、この3つのうち「探究力養成」です。
今回取り上げた教材は、『行動科学の展開』の第2章「意欲と行動」です。
この章では、人間の欲求や動機、目標設定、欲求不満、達成意欲、職場における承認など、人が行動する背景について、さまざまな理論や研究が紹介されています。
参加者は事前に教材を読み、要約、問題提起、現場に結びつけた考察を文章にまとめてきました。
興味深かったのは、同じ章を読んでいても、それぞれが注目した問題が異なっていたことです。
ある参加者は、教職員の欲求や動機を理解し、校務分掌に反映させる学校経営について考察しました。
別の参加者は、子どもを守ることと、子ども自身が課題を乗り越える力を育てることの関係に着目しました。
また、職員室の人間関係に問題が生じたとき、管理職は何を事実として確認し、どのように対応するべきかを検討した参加者もいました。
チーム担任制に取り組む学校の実践をもとに、校長が指示する経営から、教職員が自ら動きたくなる経営への転換を考えた参加者もいました。
それぞれの問題意識は異なりますが、どれも学校現場で実際に直面する課題です。
探究力養成トレーニングでは、この違いを大切にしています。
自分とは異なる要約や問題提起に触れることで、読み落としていた論点に気づくことがあります。また、他者の考察を聞くことで、自分の学校で起きている出来事を別の角度から捉え直すこともできます。
一つのテキストから複数の問いが生まれ、その問いを持ち寄ることで理解が深まる。
このプロセス自体が、学校リーダーに必要な探究力を養う機会になっています。
今回、多くの参加者に共通していたテーマが、教職員の意欲や働きがいをどのように理解するかという問題でした。
教材では、人間の行動は本人の欲求や動機だけでなく、その人を取り巻く状況や環境との関係によって生じるという考え方が紹介されています。
また、働く人が仕事に何を求めているかについて、管理者側の認識と本人の認識に違いがあることを示す研究も取り上げられました。
管理者は給与や安定した労働条件を重視していると考えていても、本人は仕事を認めてもらうことや、自分の事情を理解してもらうことを大切にしている場合があります。
もちろん、こうした研究結果が、現在のすべての教職員にそのまま当てはまるわけではありません。
重要なのは、管理職が大切だと考えていることと、教職員本人が大切にしていることが、必ずしも一致しないという視点です。
例えば、管理職が「この先生はICTが得意だから、ICT担当を任せよう」と考えたとします。
しかし、本人は別の分野に挑戦したいと思っているかもしれません。反対に、これまで経験のない仕事でも、本人が強い関心を持っていることがあります。
仕事を任せる際には、現在の能力だけでなく、本人が何を大切にしているのか、どのような成長を望んでいるのかにも目を向ける必要があります。
参加者の一人は、人事評価の面談や日常の対話を通して、教職員の思いや希望を把握する実践を紹介しました。
年度当初の目標設定だけではなく、年度途中にも話し合いの機会を設け、本人の状況や希望の変化を確認しているそうです。
教職員の置かれている状況は、学級経営、児童生徒との関係、家庭の事情、担当業務などによって変化します。
最初に決めた目標を達成することだけにこだわらず、必要に応じて目標や支援の方法を修正することも大切です。
教職員を理解することは、一度の面談で結論を出すことではなく、対話を継続することでもあります。
では、学校リーダーは教職員が何を考え、どのような状況に置かれているのかを、どうすれば理解できるのでしょうか。
今回のディスカッションでは、参加者が日常的に行っているさまざまな実践が共有されました。
授業を見に行き、その後に先生と対話する。年度当初や中間面談で、困っていることや挑戦したいことを聞く。朝の出勤時や子どもたちの下校後など、日常の様子の変化に気を配る。
こうした方法に加えて、印象的だったのが、学校を複数の立場から見取ることの重要性です。
ある学校では、管理職だけでなく、養護教諭、事務職員、教務主任などが、それぞれの立場から気づいたことを共有しています。
職員室だけでは見えない教職員の様子を、保健室や教室、学校のさまざまな場所から知ることができます。
別の学校では、管理職が定期的に集まり、異なる部署の教職員の状況を確認していました。
一人の管理職には見えていなかったことが、別の立場からの情報によって分かる場合があります。
学校事務職員として働く参加者からは、教職員の強みや挑戦していることをインタビューし、その内容を校内で共有する取り組みも紹介されました。
学校の中では、同じ学年や担当業務の人以外が何に取り組んでいるのか、意外と知らないことがあります。
そこで、一人ひとりが工夫していることや挑戦していることを言葉にして共有することで、教職員同士が互いの強みを知るきっかけをつくっています。
この実践は、課題や不満を把握するだけでなく、普段は見えにくい努力や良い取り組みにも目を向けるという点で参考になります。
ただし、観察したことや人づてに聞いた情報だけで、本人の内面を決めつけることはできません。
他者から得た情報は、必要に応じて本人との対話で確かめ、個人情報や相談内容の取り扱いにも配慮する必要があります。
複数の視点を持つことは、相手を評価するためではなく、相手をより適切に理解し、支援するために活かされることが大切です。
教職員一人ひとりの意欲を理解することは、学校の組織運営にも関係しています。
今回の議論では、校務分掌を単なる業務の割り振りとして考えるのではなく、教職員が力を発揮し、成長する機会として捉える視点が示されました。
例えば、授業改善への関心が高い教職員に、校内研修の企画を任せることが考えられます。
また、新しいことに挑戦したい教職員に対して、現在の能力だけで判断せず、少し背伸びをすれば取り組める役割を用意することも一つの方法です。
ただし、本人の希望だけで役割を決めることはできません。
学校全体の教育目標、業務の公平性、負担の偏り、必要な支援体制などを考慮する必要があります。
大切なのは、任せた後の関わり方です。
新しい役割を任せたものの、必要な時間や情報が不足していれば、本人の意欲があっても十分に力を発揮することは難しくなります。
困ったときに相談できる関係を整え、実践を振り返りながら必要な支援を調整することも、管理職の役割です。
今回の参加者からは、面談を通して本人の希望や状況の変化を把握し、年度途中でも目標や役割を見直していくことの大切さが繰り返し語られました。
教職員が持っている力を現在の仕事に活かすことと、これから新しい力を身につける機会をつくること。
この両方を考えることが、人を育てる学校マネジメントにつながっていきます。
今回のディスカッションでは、教職員から寄せられる不満や相談への対応についても意見が交わされました。
管理職にとって、教職員の不満を聞くことは、必ずしも容易ではありません。
自分では十分に配慮していたつもりでも、別の立場からは不公平に見えている場合があります。良い取り組みだと思っていたことが、教職員にとっては負担になっていることもあります。
一方で、不満が表明されたということは、それまで把握できていなかった課題を知る機会でもあります。
参加者の一人からは、ある業務担当者の仕事ぶりについて、他の教職員から不満が寄せられた経験が共有されました。
その背景には、担当者が実際に担っている仕事が、周囲から十分に見えていないという事情もあったようです。
そこで、業務の内容を整理し、どのような役割があるのかを伝えるとともに、改善できる部分について関係者と話し合いました。
単に「不満を言わないように」と伝えるのではなく、不満が生まれた背景を確認し、具体的な改善につなげようとした事例です。
また、別の参加者からは、職場での威圧的な言動などについて、本人の事情を理解することと、問題のある行為に適切に対応することを分けて考える必要があるという意見も出されました。
相手の思いや背景を理解することは重要ですが、それによって他者を傷つける行動が容認されるわけではありません。
必要な場合には、確認できた事実を整理し、職場の規律や組織としての対応手続きに基づいて判断することが求められます。
今回の対話からは、不満を聞くことと、不満にそのまま従うことは違うという視点が見えてきました。
まず話を聞き、事実を確認し、本人が何に困っているのかを理解する。その上で、組織として必要な対応を考えることが大切です。
今回の探究力養成トレーニングで、学校経営の方向性について考えさせられる問題提起がありました。
それは、
「学校を良くするために、校長である自分は何をすべきか」
という問いから、
「教職員が自ら学校を良くしたくなるために、自分は何を変えるべきか」
という問いへの転換です。
学校の課題を把握し、改善策を考え、教職員へ働きかけることは、管理職の重要な仕事です。
しかし、すべての改善策を校長が考え、細かな進め方まで決める必要があるとは限りません。
今回、参加者の一人が取り上げたのが、チーム担任制の実践でした。
チーム担任制を進める際、管理職が運用方法をすべて決めるのではなく、共通の目的と守るべき原則を示した上で、教職員自身が課題を見つけ、改善策を考える機会をつくるという考え方です。
実践の結果を共有し、うまくいったことだけでなく、課題も組織全体で振り返る。
このような取り組みができれば、チーム担任制は単に担任の配置を変える制度ではなく、教職員の協働や主体性を育てる機会にもなります。
もちろん、子どもの安全確保や適切な指導、保護者対応など、管理職が責任を持って判断すべきこともあります。
教職員へ仕事を任せることは、管理職が責任を手放すことではありません。
管理職が方向性を示し、安心して挑戦できる環境を整えながら、教職員の自主的な実践を支えていくことが重要です。
また、今回の議論では、子どもの主体性についても同様の視点が示されました。
安全と安心を確保することを土台にしながら、子ども自身が考え、判断し、適切な支援のもとで課題に向き合う機会をどう育てるかという問題です。
大人がすべてを先回りして解決するのでも、子どもだけに解決を委ねるのでもありません。
必要な支援を行いながら、その人が自ら力を発揮できる環境をつくる。
子どもの育成と教職員の育成には、共通して考えられる部分があります。
今回の探究力養成トレーニングでは、同じ教材を読んだ参加者が、それぞれ異なる問題提起を行いました。
教職員の意欲や働きがいを考える人。
子どもの主体性と大人の支援のあり方を考える人。
職員室の人間関係や組織運営を考える人。
そして、教職員が自ら動きたくなる学校経営を考える人。
それぞれの学校で置かれている状況が異なるからこそ、同じ理論から生まれる問いも異なります。
今回の対話を通して、参加者たちは自分が着目していた問題を見直し、新たな視点を得ていました。
その中心にあったのは、「相手を理解したつもりになっていないか」という問いです。
管理職は、自分自身の経験や価値観をもとに教職員を理解しようとします。しかし、その理解が正しいとは限りません。
だからこそ、目の前の事実を確かめ、本人と対話し、異なる立場からの意見を取り入れながら、自分の見立てを更新していく必要があります。
探究力養成トレーニングは、テキストの内容を覚えるための場ではありません。
知識を使って問いを立て、学校現場を見つめ直し、実践へと結びつける力を磨く場です。
その積み重ねによって、学校リーダー自身の判断や行動が変わり、教職員の主体性を支える学校づくりへとつながっていきます。
学校は現場から変わる。
そのために必要なのは、誰かから正解を与えられることではなく、自分たちの学校を探究し続けるリーダーの存在なのかもしれません。
みらい塾では、全国の学校リーダーが、探究、対話、現場実践、振り返りを重ねながら、自分たちの学校から改革を起こすための力を育てています。
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学校法人湘南学園 学園長
横浜市の小学校校長を歴任し、ユネスコスクール、ESD、学校組織マネジメント、サーバントリーダーシップ、働き方改革などの分野で実践を重ねてきた学校リーダーです。
管理ではなく、任せるマネジメント。
対話的で能動的な学び。
子どもも教職員も元気になる学校づくり。
みらい塾では、校長自身の状態が学校全体に与える影響、子ども・教職員・保護者・地域が幸せになる学校文化づくりを伝えます。