2026年8月16日、NPO法人共育の杜は、オンラインイベント「ぶっちゃけ校長会&『みらい塾』説明会」を開催しました。
全国各地から集まったのは、現役の校長・教頭をはじめ、教員、学校事務職員、教育行政や学校外から教育に関わる人たち。
約3時間にわたり、チーム担任制、教職員の働き方、校長の任期、学校文化、ミドルリーダー育成、地域との関係、そして管理職自身の学びまで、学校現場が今まさに直面しているテーマが次々と語られました。
「ぶっちゃけ校長会」は、成功事例を発表する会ではありません。
職場ではなかなか言えないこと。
管理職だからこそ言えない弱音。
新しいことを始めたいのに動かない組織への葛藤。
自分の判断は本当に正しいのかという迷い。
そうしたものを、肩書きを越えて持ち寄る場です。
今回の対話を通して見えてきたのは、学校改革には「正しい制度」や「優れた方法」だけでは足りないということでした。
制度を動かすのは人です。
人と人との間には関係性があります。
そして、その関係性に大きな影響を与えるのが、学校リーダー自身のあり方です。
冒頭、みらい塾塾長の住田昌治先生から、この場が生まれた背景が紹介されました。
校長になると、自分で使える時間は増える一方で、誰にも相談できない「孤独」が始まることがあります。
学校では最終的な判断を求められる。
教職員には不安を見せにくい。
教育委員会にも話せないことがある。
保護者や地域との関係も背負う。
参加した現役校長からも、
「校長という職だと、普段、本当に誰に対して何をしゃべったらいいのか困る時がある」
という率直な言葉が出ました。
住田先生は、みらい塾の前身とも言える場が、コロナ禍の「心の職員室」から始まったことを振り返りました。
最初は、学校で言いたいことも言えず、苦しんでいる先生たちが少しでも心を緩められる場でした。
しかし、対話を重ねる中で見えてきたのは、癒やされるだけでは学校は変わらないということです。
現場を変えていくには、学校リーダー自身が学び、育っていく必要がある。
そこから、現在のみらい塾へと発展してきました。
今回、もっとも長く議論されたテーマの一つが「チーム担任制」でした。
共育の杜では現在、「チーム担任制全国ネットワーク」を運営しています。
全国で関心が高まり、すでに導入している学校、これから検討する学校、それぞれの現場からリアルな声が寄せられています。
熊本県の小規模小学校から参加した校長先生は、今年4月からチーム担任制を導入した実践を紹介しました。
一学年一学級の小規模校は、一見すると「アットホーム」に見えます。
しかし、実際には一人の担任が一学年をすべて抱え、別の学年に問題が起きても他の先生が助けに入りにくい。
結果として、担任が孤立する構造が生まれることがあるといいます。
だからこそ、小規模校にこそチーム担任制が必要なのではないか。
一方で、導入してみて見えてきた課題もありました。
時間割や教科分担といった制度上の仕組みは作れても、教職員の意識はすぐには変わらない。
「制度上はできていても、自分がこの学年を持った時は一人で頑張らなければ、という意識が残る」
という言葉が印象的でした。
これは、チーム担任制の本質を突いています。
担任をローテーションさせれば「チーム」になるわけではありません。
複数の先生の名前を並べれば「チーム」になるわけでもありません。
「この子は私のクラスの子」から、
「この学年、この学校の子どもを私たちで育てる」へ。
そして、
「自分の仕事は自分で抱える」から、
「互いの強みと弱みを理解し、支え合う」へ。
変えなければならないのは、制度だけではなく、長年積み重ねられてきた教職員の仕事観や責任観なのです。
議論では、チーム担任制には学校ごとにさまざまな形があることも共有されました。
大規模校と小規模校では条件が違います。
教員数も違います。
若手とベテランの構成も違います。
地域性も、子どもたちの状況も違います。
だから、どこかの成功事例をそのまま持ってきても機能するとは限りません。
住田先生は、
「結局、その学校で考えて、自分たちで答えを出すしかない」
と語りました。
これはチーム担任制だけの話ではありません。
学校改革全体に言えることです。
新しい制度を導入することが改革なのではない。
他校で成功した方法をコピーすることが改革なのでもない。
自分の学校の子どもたちは、今どんな状態なのか。
先生たちは何に困っているのか。
この学校が大切にしてきたものは何か。
何を変え、何を残したいのか。
それを対話し、自分たちなりの答えをつくる。
学校改革とは、本来そういう営みなのではないでしょうか。
もう一つ、現役校長から非常に切実な問いが出ました。
「校長が一つの学校にいられる年数は短い。自分が改革を始めても、自分が異動した後はどうなるのか」
地域によって違いはありますが、2年、3年という短い任期で異動する管理職は少なくありません。
1年目に学校を知る。
2年目に改革を始める。
しかし、その頃には次の異動が見えてくる。
では、何か新しいことを始めない方がいいのか。
この問いに対し、複数の元校長、現役校長から経験が語られました。
そこで浮かび上がったキーワードが「学校文化」です。
制度や行事の形は、校長が替われば変わるかもしれない。
しかし、
「子どもを真ん中に置いて考える」
「先生が自分で考えて挑戦する」
「保護者や地域と共に学校をつくる」
「困った時には一人で抱え込まない」
といった文化は、人から人へと受け継ぐことができます。
ある元校長は、限られた任期の中で、
「今、目の前にいる子どもたちを幸せにしたい」
という思いで改革を進めた経験を語りました。
次の次の校長まで自分がコントロールすることはできない。
それでも、今いる子どもたちのために、今できることをやる。
そして、その思いを教職員だけでなく保護者や地域にも伝えていく。
形を残すのではなく、文化を残す。
この視点は、学校改革を「校長個人の改革」で終わらせないための重要なヒントでした。
対話はさらに、「管理職はどこで学校経営を学ぶのか」という問いへ進みました。
参加した校長からは、
「管理職は教員の延長線上にある立場ではない」
「学校経営は、経験の中で失敗しながら身につけてきた部分が大きい」
「副校長時代に見ていたはずなのに、校長になると全く違って見えた」
という声が上がりました。
教員として授業が上手いこと。
生徒指導ができること。
研究主任として力を発揮すること。
それらはもちろん重要です。
しかし、学校全体を見る立場になると、求められるものが変わります。
人をどう配置するか。
誰に何を任せるか。
どこに働きかければ組織全体が動くのか。
教職員の声をどう聴くのか。
地域や教育委員会とどう関係をつくるのか。
自分がいなくても人が育つ環境をどうつくるのか。
つまり、プレイヤーとしての力量だけではなく、リーダーシップ、マネジメント、ファシリテーション、アセスメント、組織開発といった視点が必要になります。
ところが、それらを学校現場に即して体系的に学び、実践し、振り返る場は決して多くありません。
この「学ぶ機会の空白」こそ、みらい塾が向き合ってきた課題の一つです。
学校事務職員の参加者から出た言葉も、この日の重要な場面の一つでした。
若い頃は、
「なぜ管理職はもっと早く動かないのか」
「なぜこんな判断をするのか」
と思うこともあった。
しかし今は、
「自分たちが知らない側面を、管理職はたくさん知った上で判断しているのではないか」
「管理職にしか見えない景色があるのではないか」
と考えるようになったといいます。
すると、問いが変わります。
「管理職はなぜやってくれないのか」から、
「管理職は何を見て、その判断をしているのか」へ。
住田先生は、それを「視座が変わってきた」と受け止めました。
学校をチームにしていくとは、管理職がすべてを背負うことでも、教職員が管理職に要求するだけでもありません。
互いの立場から見えている景色の違いを知ること。
相手の判断の背景に関心を持つこと。
そして、自分には何ができるかを考えること。
ここにも「対話」が必要です。
イベント後半、議論はさらに根本へと戻っていきました。
人が辞める。
誰かに負担が集中する。
職員室の関係がぎくしゃくする。
新しい制度を導入しても動かない。
こうした悪循環をどう変えるのか。
住田先生が繰り返し語ったのは、驚くほどシンプルなことでした。
「人の話を大切に聞く」
ただし、これは簡単なことではありません。
好きな人の話だけを聞く。
話しやすい人の話だけを聞く。
自分と考えが近い人の話だけを聞く。
それでは信頼関係は育ちません。
ただ音として聞くのでもなく、相手が何に関心を持ち、何を大切にし、何に困っているのかに本当に関心を寄せて聞く。
その小さな行動の積み重ねが、安心して話せる職員室をつくります。
そして、そうした関係性は教職員から子どもへ、保護者へ、地域へと波及し、やがて自分たちにも返ってくる。
住田先生はそれを「ごきげんの循環」と表現しました。
ここでいう「ごきげん」とは、単にいつもニコニコして気分よくいるという意味ではありません。
自分の心を安定させ、落ち着いて人と関わり、信頼関係をつくれる状態を自分の中に育てること。
学校のリーダーの状態は、職員室に伝わります。
職員室の空気は、子どもたちに伝わります。
だから、学校改革はリーダー自身のあり方と切り離せないのです。
今回の「ぶっちゃけ校長会」は、みらい塾で毎月行われている「ごきげん革命・現場ディスカッション」の空気を体験していただく機会でもありました。
みらい塾では、ここで出たような現在進行形の学校課題を持ち込み、全国の仲間と本音で語ります。
しかし、みらい塾は「悩みを話す場所」だけではありません。
リーダーシップとマネジメントを理論から学ぶ。
問いを立て、自分の考えを言語化する。
現場の実践を持ち寄り、対話する。
自分自身のあり方を見つめる。
信頼や関係性をどう育てるかを学ぶ。
そして学校に戻り、実践し、また振り返る。
この往還を繰り返します。
みらい塾は原則として毎月3回、Zoomで開催され、全国から参加できます。
半年間を1クールとし、その先も継続して成長していくための学びが用意されています。
今回の座談会で何度も出てきたのは、
「答えは外から与えられるものではない」
ということでした。
チーム担任制もそうです。
学校文化づくりもそうです。
ミドルリーダー育成もそうです。
管理職自身の判断もそうです。
自分の学校を見て、
子どもを見て、
先生を見て、
自分自身を見て、
仲間と対話し、
自分たちの答えをつくる。
だからこそ、学校リーダーには「学び続ける場」が必要です。
国の制度が変わるのを待たなくても、できることがあります。
教育委員会の指示を待つだけでなく、自分たちで考えられることがあります。
職員室で一人の話を丁寧に聞く。
一人で抱えている先生に声をかける。
教職員の強みを見つけ、役割をつなぎ直す。
学校の子どもたちに本当に必要なものは何かを、もう一度話し合う。
そんな一歩から、学校文化は変わり始めます。
そして、その小さな改革を一校だけで終わらせず、全国の学校リーダーが学び合い、実践を共有し、それぞれの地域へ持ち帰る。
共育の杜が「みらい塾」と「チーム担任制全国ネットワーク」を通してつくりたいのは、そんな流れです。
学校をもっとよくしたい。
でも、一人では変えられない。
だからこそ、一人でやらない。
同じように悩み、考え、挑戦している仲間とつながりながら、自分自身を磨き、自分の学校から改革を始める。
2026年9月、「みらい塾」第8期がスタートします。
募集締切は8月23日です。
学校をもっとよくしたい。
先生たちが孤立せず、力を発揮できる職員室をつくりたい。
管理職として、あるいはこれから学校を担うリーダーとして、本気で学びたい。
そう感じている方は、ぜひ第8期の扉を開いてください。
9月スタート
8月23日締切

学校法人湘南学園 学園長
横浜市の小学校校長を歴任し、ユネスコスクール、ESD、学校組織マネジメント、サーバントリーダーシップ、働き方改革などの分野で実践を重ねてきた学校リーダーです。
管理ではなく、任せるマネジメント。
対話的で能動的な学び。
子どもも教職員も元気になる学校づくり。
みらい塾では、校長自身の状態が学校全体に与える影響、子ども・教職員・保護者・地域が幸せになる学校文化づくりを伝えます。